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映画、書評、ジャズなど

9条とソフト・パワー

憲法

 「ソフト・パワー」という言葉は、ジョセフ・ナイが広めた言葉で、要するに軍事力などの「ハード・パワー」に対して、文化的な魅力のようなものを国家のパワーとして重視する考え方です。

ソフト・パワー 21世紀国際政治を制する見えざる力

ソフト・パワー 21世紀国際政治を制する見えざる力

 近年ではあまりにこの言葉が頻繁に使われるので、やや飽きられてきている感もあるのですが、ジョセフ・ナイ憲法9条をソフト・パワーとして捉える見解に注目している記事が掲載されているので、御紹介したいと思います。

「安倍首相の逆をいくリベラル派日本の主張」 ハーバード大学教授 ジョセフ・S・ナイ(1)
「安倍首相の逆をいくリベラル派日本の主張」 ハーバード大学教授 ジョセフ・S・ナイ(2)

 ナイは、朝日新聞の社説が、9条を日本がアメリカの高圧的な軍事政策に対抗する手段として捉えている点に注目しています。

 朝日新聞憲法9条維持を主張するのは、9条によって日本がアメリカの高圧的な軍事政策に対抗できるからだという。実際、ブッシュ大統領を喜ばせようと小泉前首相は自衛隊派遣に踏み切ったが、そうしたことが前例になることを同紙は懸念している。保守派の論陣は、9条改正によってアメリカの圧力に抵抗できるはずだと主張するが、同紙は逆に9条維持によって、日本はアメリカに対抗できると訴えているのである。

 朝日新聞が9条維持の方向性の先に提示しているのは、軍事力に拠らない日本の“ソフトパワー”による、アジアでの先駆的役割である。

「安倍首相の逆をいくリベラル派日本の主張」 ハーバード大学教授 ジョセフ・S・ナイ(2)

 このナイの主張を見て思い出したのは、今年の2月15日の毎日新聞夕刊の「国際貢献と憲法を考える」と題された、北海道大学中島岳志助教授(当時)と東京外大の伊勢崎賢治教授の対談記事です。

 伊勢崎教授は、アフガニスタンDDR(Disarmament, Demobilization & Reintegration:武装解除、動員解除、社会再統合)の現場で活躍されるなど、国際貢献の現場で活躍された方で、『武装解除 紛争屋が見た世界』(講談社現代新書)という本を書かれています。

武装解除  -紛争屋が見た世界 (講談社現代新書)

武装解除 -紛争屋が見た世界 (講談社現代新書)

 伊勢崎教授は、対談の中で、国際貢献の体験を踏まえて次のように述べられています。

彼らは日本が経済大国であると共に、戦争をしない人畜無害な国だと感じ取っている。この日本人の人畜無害さは9条が培ったものです。なぜそのイメージをもっと利用しないのか。国際紛争の調停に、日本ほど向いている国はないのに。

 これこそ、ナイのいう「ソフト・パワー」です。

 自衛隊の海外での活動は種々の憲法上の制約を受けるわけですが、しかしながら、他方では、こうした制約を受けているからこそ、自衛隊を受け入れる国にとってみれば、安心して自衛隊を受け入れることができるという面もあるわけです。そうしたメリットを生かそうとするのであれば、現行の9条を維持しつつ、その認める範囲内で解決策を模索していく方が我が国の国益にもつながるのではないかという気がします。

 9条の制約があるから我が国の国際貢献が満足にできないのだという主張をしばしば耳にしますが、こうした主張は思いこみに基づく幻想であるような気がします。石破茂防衛庁長官が、防衛庁長官であった時分に東ティモールのグスマン大統領の訪問を受け、

「自分はいろいろな国の軍隊を見てきた、・・・だけれども、世界の中にこんなにすばらしい軍隊、自衛隊があるとは思わなかった。自衛隊は、我々とともに笑って、我々とともに泣いて、我々とともに汗を流してくれた。我々を上から見下すようなことは一度もなかった。軍隊というものは常に上から物を言うものだ。だけれども、日本の自衛隊だけは違った。こんなすばらしい組織が本当に世界にあることをおれは知らなかった。」(平成18年8月11日の衆議院国際テロリズムの防止及び我が国の協力支援活動並びにイラク人道復興支援活動等に関する特別委員会における石破議員の発言)

と言われたというエピソードを紹介されていますが、9条の枠内であっても、自衛隊が他国から大いに感謝される国際貢献を行うことはできるわけですし、むしろ9条の枠内での活動だったからこそ、東ティモールの大統領からここまで感謝されたのではないでしょうか。

 9条をもっと日米関係や国際関係においてもっと戦略的に活用していくという視点を我々は持ってもよいのではないかと思います。