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レイモンド・チャンドラー「さらば愛しき女よ」

 レイモンド・チャンドラーといえば、最近では、村上春樹が新訳を発表した『ロング・グッバイ』がベストセラーとなったところですが、私も『ロング・グッバイ』を読んで、冷めた私立探偵フィリップ・マーロウを主人公とするレイモンド・チャンドラーの世界にのめり込みつつあります。

 今回御紹介する『さらば愛しき女よ』も、『ロング・グッバイ』に優るとも劣らぬスリリングな物語となっています。

 マーロウは、6年間の刑務所生活から出所した大鹿マロイが、かつての恋人のヴェルマを探して、殺人事件を犯す場面に出くわす。そしてマーロウは、ヴェルマがかつて働いていたナイトクラブの元経営者の妻を訪れて話を聞くのであるが、そんな最中に、マーロウはジゴロ風の独身男のマリオから、盗難にあった宝石との引き替えのための金の受け渡しに立ち会ってくれるよう依頼を受けるが、そこでまた、マリオが殺されてしまう。マリオは、グレイルという年老いた富豪の夫人からこの仕事の依頼を受けていた。マーロウはこれらの殺人事件を追っていくうちに、その背後に腐敗した警察組織や裏社会の存在が見え隠れしていることに気付いていく。そして、一見関係のないと思われる2つの殺人事件が、物語の進行とともに次第に接点が現れてくる・・・。

 チャンドラーの小説に惹かれる最大の理由は、私立探偵マーロウの生き様にあると言えるでしょう。特段の功名心があるわけでもないものの、次々と事件に巻き込まれていき、その責任感から、大したお金にもならないにもかかわらず、命の危険を冒してまで事件に深入りしていってしまう。そんな物語の中には酒もあり、女もあり。男からすれば、得も言われぬかっこいい生き方なのですね。これは、『ロング・グッバイ』についても同様に言えることです。