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「平成19年版国民生活白書」

 平成19年の国民生活白書が発表されました。サブタイトルは「つながりが築く豊かな国民生活」です。

 長年の伝統ある国民生活白書ですが、今回の白書は「つながり」という着眼点もよく、なかなかいい白書に仕上がっているのではないかと思います。

 まず、生活全般の満足度ですが、「満足している」と回答した人の割合が3.5%、「まあ満足している」と回答した人の割合を足しても35.%と、過去最低となっています。

 これだけ物が溢れた時代において、なぜこれだけ満足度が低いのか?それは、心の豊かさが満たされていないことが原因のようです。かつては、「心の豊かさ」よりも「物の豊かさ」に重点を置く人の割合が高かったのが、今では完全に「心の豊かさ」(62.9%)が「物の豊かさ」(30.4%)を圧倒的に上回っています。これもポストモダンの影響の現れというべきかもしれません。

 白書では、「心の豊かさ」と「つながり」の関係性が強調されています。つまり、家族や地域、職場の人とのつながりが精神的やすらぎをもたらすという点です。そして、「つながり」が希薄化したことによって、人間関係が難しくなったと感じている人が多いことを指摘しています。

 以下、白書の注目すべき指摘をいくつか挙げてみたいと思います。

[家族とのつながり]
○働き盛りの男性の約3割が家族と過ごす時間が十分でないと感じている。
○家族との時間が取れないのは仕事が忙しいから。
○家族が一番大切と思う人は増加している。
○家族とのつながりがある人ほど精神的やすらぎが得られる。

[地域とのつながり]
○近所に生活面で協力し合う人がいない人が多い。
○つながりは高齢者に偏在し、若年者は孤立傾向。
○多くの人は困ったときに助け合う関係を望んでいる。
○何か社会のために役立ちたいと考える人は長期的に高まる傾向。地域活動を通じて社会に貢献したいと考えている人は多い。
○サラリーマン化により地域のつながりが希薄化した。サラリーマンの中でも長時間働く人ほど地域活動から遠ざかる。
○地域のつながりを持たない傾向にある賃貸共同住宅の住民が増加した。
○隣近所と行き来する人は精神的やすらぎを得ている。
○地域とより親密な付き合いのある人は子育てへの不安が少ない。

[職場とのつながり]
○職場では部分的な付き合いを望む人の割合が増加。
○若年層を中心に勤続年数が短くなっている。
○長時間働く人の割合は高まっている。(労働時間は長短二極化の傾向)
○会社のために生活を犠牲にしてもよいと考える割合が減少している。
○仕事・余暇両立派が増えている。
○仕事や職場環境に関する充足度は低下している。
○正社員は仕事に対する疲れやストレスをより強く感じている。
○パート・アルバイトは、雇用の不安定さからストレスを感じている。
○4人に1人が「若手を育成する余裕がない」と感じている。
○仕事と生活のバランスを取りたいと希望する割合は高いが、実際にはその希望がかなえられていない者が多い。

 つまり、この白書からは、多くの人が家族や地域とのつながりを求めており、そうしたつながりが精神的やすらぎをもたらすにもかかわらず、それが経済・社会環境に起因する制約によって実現できていないという状況が生じていることが分かります。職場との関係は、多くの人がこれまでよりも距離を置きたいと求めているにもかかわらず、実際には職場に縛られ、家族や地域との関係が希薄になってしまっているというのが実情のようです。

 結局、この問題を解決するためには、ワーク・ライフ・バランスすなわち労働と生活のバランスの見直しが必要不可欠です。そして、この問題は社会全体としてどういう制度を仕組むかという問題であり、個々人の意識の問題を遙かに超越した問題だということを認識することが必要でしょう。

 前にも述べたように、

年次有給休暇の義務的消化
・労働時間の厳格な上限設定
・パート労働者とフルタイム労働者の格差撤廃(オランダのように)

 私はこれが1つの具体的解決策なのだと思っています。

〔補足〕濱口桂一郎先生もEU労働法政策雑記帳の中で「内閣府の中からこういう適切な指摘がされることは大変時宜を得たもので、多くの国民の目に触れることが望まれます。」と書かれていますが、私もそのとおりだと思います。