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「ニュー・シネマ・パラダイス」★★★★★

  おそらくほとんどの映画好きは、この映画の主人公の少年トトにごく自然に感情移入して見ているのではないでしょうか。映画を通じて描かれたトトとアルフレードの温かい交流と、そして全編を通じて流れるほのぼのとしたミュージックが、この映画を希有の名作に仕立てています。

 少年トトは、大の映画好きで、近所の映画館の映写室で映画技師として働くアルフレードの下に通い詰めます。

 アルフレードの仕事は、映写機を廻すことのほかに、神父の指示に従って、キスシーンなど映画の問題となるシーンを切り取ることがあります。キスシーンを切り取った部分のフィルムを欲しがるトトに対し、アルフレードは協定を結ぶことを提案します。

「これは全部お前にやる。だが、私が保管する。お前はここに来るな。」

 これに対して、トトは、「ぼくのフィルムなのに、あんたが保管するの?」と聞き返すのですが、アルフレードは有無を言わさずトトを仕事場から追い払います。しかし、この約束が、映画の最後のシーンで生きてくることになるのです。

 トトは、映画見たさに、母親から牛乳の代金として預かったお金でこっそり映画を見てしまいます。それが母親にばれ、母親がトトをこっぴどく叱っているときにアルフレードが通りかかります。アルフレードは、トトにただで映画を見せたことにして、母親から預かったお金は映画館に落とし物として届いていたとして、トトを助けます。何とも心温まる感動的な場面です。

 アルフレードとトトは、こうして年の差を超えて、2人だけの交流を深めていきます。

 ある日、人々が映画館の前の広場で映画館に入れずに騒いでいると、アルフレードは映写機を広場の建物に向け、皆が映画を見られるように配慮するのですが、アルフレードが少し目を離したすきにフィルムが燃えて映画館が火事になってしまいます。トトは必死にアルフレードを火の中から救出し、アルフレードは一命を取り留めるのですが、アルフレードは火傷で失明してしまい、その後再建された映画館では、アルフレードに代わってトトが映画技師として働くことになります。

 そのうち、トトは次第に自ら映像を撮り始めます。アルフレードにエレナとの恋の相談をするようにもなります。しかし、アルフレードは、トトに、この村から出て広い世界に飛び込むことを勧めます。

「もうお前とは話さない。お前の噂を聞きたい。」

 別れ際の駅でも、アルフレードはトトにこう言います。

「帰ってくるな。私たちを忘れろ。手紙も書くな。郷愁(ノスタルジー)に惑わされるな。すべて忘れろ。」

 こうしてトトは、いわば突き放されるようにして、故郷を後にすることになります。後に分かるのですが、アルフレードはトトの恋人エレナに対しても、トトと分かれるよう説得していたのでした。

 その後、トトは立派な映画監督となった後、アルフレードの訃報に接して、村に初めて帰ってくるわけです。そこで目にしたのは、かつて通った映画館が廃墟となった光景でした。映画はもはやテレビに追いやられてしまい、映画館の建物はまさに壊されようとしていたのです。

 トトは、かつての恋人エレナとも再会し、アルフレードがトトとエレナを引き離したことを知ります。そして、アルフレードがトトに残したあるフィルムを渡されます。それを持ち帰ってトトが見る場面がこの映画のクライマックスです。そのフィルムには、昔切り取られた数々のキスシーンが詰まっていた。このフィルムこそが、数十年前に2人が交わした約束の証だったのです。

 淀川長治は、『淀川長治 究極の映画ベスト100』の中で、

淀川長治 究極の映画ベスト100 (河出文庫)

淀川長治 究極の映画ベスト100 (河出文庫)

「これは私のためにつくられたような映画なんですね。」

と述べておられますが、そのお気持ち、よく分かります。

 とにかく、映画好きにはたまらない映画なのです。