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熊沢誠「リストラとワークシェアリング」

リストラとワークシェアリング (岩波新書)

リストラとワークシェアリング (岩波新書)

 「ワークシェアリング」という言葉を最近めっきり見かけなくなりましたが、熊沢誠氏の本書によってその可能性の大きさに改めて気づかされました。素晴らしい本です。

 ワークシェアリングにも様々な形態があり、大きく分ければ、フルタイムの労働時間を一律に短縮することを目指す<一律型>と、個人の選択に任せる<個人選択型>とに分けられます。多くの企業が<個人選択型>にプライオリティを置く中、熊沢氏は本書において、

「この日本においてこそ<一律型>ワークシェアリングがもっと重視されるべきだという立場に立つ。」

と述べ、執拗に<一律型>に固執します。とにかく、一律に労働時間の短縮を図り、雇用の拡大を図っていかなければならないという考え方です。
 熊沢氏は、我が国の労働を巡る4つの現実を挙げておられます。それは、①失業率の高まり、②現時点の企業による人べらしの遂行、③日本は依然として働きすぎる労働者が多いこと、④パートタイマーに対する処遇の差別、の4点です。そして、これらの問題を解決する切り札が「ワークシェアリング」というわけです。

 ところが、企業は当然のごとくこの<一律型>を嫌います。そして、労働組合もそれに抗するだけの力をもはや持ち合わせていません。その結果、我が国では上記の4つの現実がなかなか解消されずに今日にきているわけです。経営側は、労働時間の短縮なきままの賃下げ、容赦なき人べらしリストラ、非正社員の待遇改善につながるような一切の法的規制の拒否という態度をいささかも変えていない、という事実は熊沢氏が指摘しているとおりです。

 私は熊沢氏の<一律型>ワークシェアリングにこだわる姿勢に大いに共感します。競争が煽られる社会にあっては、個々人の選択によって労働条件を緩和したりすることはおそらく不可能でしょう。労働者たちはサービス残業をしてまでも、競争に打ち勝とうとするからです。労働環境の改善というのは、国家が強制的に一律に緩和しなければ進まないことは歴史的に見ても明らかです。そして、個々人の選択に任せるというやり方をとれば、経営側が労働者に過度な労働環境を強いる口実(労働者が自発的に働いているのだからしょうがない)とされるだけです。

 近年、労働時間短縮政策にブレーキがかかりつつあるように見受けられますが、この点はむしろ強化されてもいいはずです。有給休暇の取得ももっと強制力があってもよいと思います。そして、その分、より多くの正規社員を雇用することで穴埋めすべきでしょう。

 近年フリーター問題が盛んに論じられる中で、ワークシェアリングの発想はもっと取り上げられてよいはずです。そして、企業の業績が回復してきた今こそ、企業はもっとワークシェアリングの実現に本腰を入れるべきでしょう。