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ケニアのナイロビに置かれた英国高等弁務官事務所に勤務する英国外交官のジャスティンの妻テッサが、何者かによって殺害されるという事件が起こる。ジャスティンは当初、テッサが医師アーノルド・ブルームと不倫関係にあることを疑うが、調べていくうちに、テッサは、製薬会社がアフリカで結核治療の新薬の副作用についての人体実験を行っている疑惑を暴こうという正義感によって行動していたことを知る。テッサは、こうした疑惑を暴くためのレポートを作成しており、テッサの殺害は、テッサのレポートを良く思わない人々の陰謀だった。そして、妻の遺志を継ごうとするジャスティンの身にも命の危険が降りかかってくるようになる。ジャスティンは映画の最後に、妻テッサが殺害された場所に足を運び、そこで死を遂げる・・・。
この話はもちろんフィクションなのですが、かつて自らも外交官生活を送っていたル・カレだけあって、真実味を帯びた物語となっています。彼は、この小説を書くに当たって、製薬業界について調査を行っているようですが、ル・カレが次のように述べていることは大変意味深です。
「…しかしこれだけは言える。製薬業界のジャングルを旅するうちに、現実に比べれば、私の話は休暇の絵葉書ぐらいおとなしいものだと思うようになった。」(集英社文庫の「著者の覚え書き」より)
- 作者: ジョンル・カレ,John Le Carr´e,加賀山卓朗
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この映画で取り上げられている問題とはいささか離れてしまうのですが、実際、発展途上国への医薬品支援の問題というのは、とりわけ特許権とも絡んで、南北対立を引き起こしている問題です。医薬品の開発というのは莫大な研究開発コストがかかる分野であり、その成果についても特許権で厳重に守られています。このため、発展途上国が医薬品を欲しても、製薬会社が特許権を盾に安価な医薬品の販売を認めないという事例も生じてきたわけです。そうした製薬会社の姿勢からしても、この映画で描かれている世界というのが現実に全く存在しないのかについては、疑いのまなざしを持たざるを得ません。
この映画に描かれている多国籍企業と発展途上国との関係を見ると、「従属理論」やウォーラースティンの世界システム論を思い出します。つまり、世界の構造は中枢と周辺から成り立っており、周辺は中枢に搾取されているという構図です。こうした構図を生み出していくことはこそ資本主義の本質であり、先進国が資本主義を振りかざして発展途上国に相対すれば、たとえそれがもともとは善意に基づくものであっても、悲劇が生じてしまうということを訴えているように思えます。
『ナイロビの蜂』は、こうした深刻な社会問題を表現した重厚な作品ですが、同時に、切ない恋愛ストーリーでもあります。どちらの視点からも十分な堪能に耐えうる作品だと思います。