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「単騎、千里を走る。」★★★★

単騎、千里を走る。 [DVD]

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 チャン・イーモウ監督の「単騎、千里を走る。」です。

 言葉も音楽もいらないほど高倉健の圧倒的存在感が光っていました。若い頃に「君よ憤怒の河を渉れ」(1976)★★★★を見て以来高倉健を尊敬してやまないチャン・イーモウ監督が、「不器用」な高倉健の良さを余すところ無く発揮させた作品です。

君よ憤怒の河を渉れ [DVD]

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 チャン・イーモウの作品は、このほか「初恋のきた道」★★★★「あの子を探して」★★★☆「LOVERS」★★☆を見ていたのですが、「単騎、千里を走る。」は「あの子を探して」ととても雰囲気が似ていてます。どちらの映画も、主人公が何かを探しに出かけていくという点で内容も共通しているのですが、加えてこの2つの映画に共通するのは、都市と農村の対比が鮮やかに描かれている点です。急速な工業発展を遂げる中国にあって、チャン・イーモウは、どこかかつての農村に郷愁を感じているかのように思えます。一方、高倉健も、「鉄道員(ぽっぽや)」★★★☆や「幸福の黄色いハンカチ」★★★★☆など、都会に馴染めない男を体現している役者さんであるわけですが、今回の映画では、その高倉健が演じることによって、かつての農村にはあったかもしれない人間味が浮き上がっているように感じられます。 若きチャン・ツィーが出演した「初恋のきた道」もそうですが、チャン・イーモウ監督は、中国農村をことさら美しく描いています。実際の中国の農村が必ずしも美しい面ばかりでないことはこれまた事実ですが、チャン・イーモウ監督の作品には、どこか経済発展ばかりを追い求める中国社会に反発するような姿勢が感じられます。かつて、高度経済によって急激な経済発展を遂げたものの、その高い代償を払わされたかつての日本社会と今日の中国社会は、ことのほか似ているのかもしれません。
初恋のきた道 [DVD]

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 いずれにせよ、日中間が政治でうまくいっていない中で、映画界では日中間の協力が進んでいることは良いことですね。チャン・ツィーが芸者を演じた「SAYURI」★★★なんかも賛否両論あるようですが、中国女優が日本文化(?)を曲がりなりにも演じたということで、それだけでも大きな意味があると思っています(中国では上映禁止となったようですが・・)。地道な映画界の協力が少しでもお互いの文化理解を増進し、政治対立を和らげる方向に働いてくれれば、と感じました。