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マイケル・シェイボン「ユダヤ警官同盟」

ユダヤ警官同盟〈上〉 (新潮文庫)

ユダヤ警官同盟〈上〉 (新潮文庫)

ユダヤ警官同盟〈下〉 (新潮文庫)

ユダヤ警官同盟〈下〉 (新潮文庫)

 アラスカにおいてユダヤ人亡命者を受け入れる仮想の地区シトカを舞台としたミステリーです。

 主人公ランツマンはシトカ特別地区の殺人課の刑事。父親ポーランドから移民したユダヤ人だった。妻ビーナと離婚し、ホテルで生活していたが、そのホテルで殺人事件が起こった。殺されたのは、メンデルシュピルマンというチェスの天才で、正統派のユダヤ人グループの指導者の息子だった。メンデルは幼少の頃から不思議な魔力を持ち合わせており、ユダヤの救世主と見られていた神童だったが、やがて薬に溺れるようになっていた。

 ちょうどその頃、シトカ地区の施政権は原住民たちの手に戻されることになっており、ランツマンたちは近いうちに警官を辞めなければならない状況だった。

 そんなとき、ランツマンの上司として、別れた元妻のビーナが着任。メンデルの殺人事件はユダヤ人グループからの圧力で捜査しないことになっていたため、ビーナはランツマンに捜査を辞めるように指示するが、ランツマンはその命令を破り、この件の捜査を進めたため、警察手帳を取り上げられる羽目に。

 しかし、捜査を進めるにつれて、事件の真相が明らかになっていく。原住民たちの土地にユダヤ人たちの秘密施設があったのだ。メンデルはそこに連れて行かれていた。そして、そこまでメンデルを飛行機で運んだのは、ランツマンの妹だった。

 その秘密施設には赤い牛が匿われていた。このユダヤ人のグループは、この赤い牛をエルサレムに運び、そしてメンデルを利用して、岩のドームと呼ばれる爆破し、エルサレムに帰還することを計画していたのだった。。。


 訳者あとがきによれば、第二次大戦前夜、ローズヴェルト政権の内務長官が、バラノフ島周辺にユダヤ人亡命者を受け入れる計画を立てていたという史実があるのだそうです。本書は、仮にこの計画が実現していたらという設定で書かれているようです。シトカという地区があたかも実在するかのようなリアリティを持って描かれているのも、納得できます。

 ユダヤ教の中も、正統派、改革派など必ずしも一枚岩でないことも、本書を読むとよく分かります。

 本書は、ユダヤ人の壮大な陰謀が軸となり、そこにチェス、そして主人公の警官と元妻の微妙な関係がスパイスとなっており、とても豊かな作品に仕上がっています。

 それにしても、ユダヤ人というのは、ミステリー小説の題材としてはとてもピッタリ合います。