映画、書評、ジャズなど

バンコク滞在記

 久々にバンコクに行く機会に恵まれました。
 最後にバンコクを訪問したのは90年代後半ですので、10年以上も前です。この間、バンコクがここまで大きく変化しているとは思いませんでした。今ではバンコクは、アジアの一大商業都市に変貌を遂げていることを肌で実感しました。

仏教の国タイ

 タイが仏教の国であることは言うまでもありません。オレンジ色の袈裟を纏った僧侶たちが街の中をピンダバート(托鉢)している姿をみかけます。ピンダバートをしている僧侶たちは両手で鉢を抱えており、そこに街の人たちが恭しく食料を盛りつけていきます。僧侶たちがいかに街の人たちから尊敬されているかが分かります。

 タイの仏教は小乗仏教(テラワーダ)ですので、誰しもがその戒律を厳しく守りつつ生活していけるわけではなく、一部の出家した僧侶のみが戒律を遵守した生活を送っています。しかし、タイには「一時僧」という制度があって、毎年多くの若者が一時的に僧になるそうです。何のために僧になるかといえば、両親とくに母親のためなのだそうです。女性にとっては、息子を僧にすることが最高の徳を得る方法なのだそうです。

 さて、2月18日はタイのマーカブーチャー(万仏節)に当たる日でした。釈迦の弟子が集まったことを祝う日なのだそうです。バンコクの有名な寺院であるワット・プラケオに行ってみると、多くのタイ人たちが手に線香と蓮の花を持って手を合わせながら本堂の周りをぐるぐると巡っていました。

 タイでは、仏教絡みの祝祭日には、実はお酒の販売が禁止されているそうです。それを知らずにあるタイ料理のレストランに入り、シンハービールを注文したところ、お茶を出すためのポットに注がれて運ばれてきました。なぜかと店員に聞くと、本当はアルコールは出せないのだけど、、、とこっそり教えてもらったのです。

 今回訪れた寺院は、ワット・プラケオとワット・ポーの2カ所です。
 ワット・プラケオは王宮の隣にあるバンコクを代表する寺院です。

 ワット・ポーには有名な巨大な寝釈迦仏があります。英語でReclining Budhaといった方がイメージがわきますが、肘をついて優雅に横たわる姿は、どこか滑稽な感じすらします。

 タイの寺院は、日本の寺院と比べて、ユーモアが散りばめられているような気がします。仏像にしても、単に厳かな雰囲気であるだけではなく、漫画チックなものも見られます。ワット・プラケオには、こんなユーモラスな像がたくさんあります。

 そのことが寺院を人々にとってより身近な存在にしている面ももしかしたらあるかもしれません。人々の生活や精神の中に自然な形で融合しているのが、タイ社会における仏教なのです。

一大商業地としてのバンコク

 前回訪問時と比べてバンコクが一番変わった点は、商業地としての発展でしょう。前回はなかったBTS(スカイトレイン)や地下鉄も着々と完成し、駅前に大きなショッピングモールができていました。
 セントラル・ワールドは、昨年のデモの際に放火・破壊され、しばらく営業休止を余儀なくされたことで有名となった施設ですが、今でも一部復旧工事が続いています。日本の伊勢丹デパートも入っていますが、破壊されたところの反対側だったため、被害は比較的少なかったようです。

 それからMBK(マーブンクロン・センター)も、大勢の観光客でごった返す一大スポットです。とにかく小さな店舗が無数に集められた施設で、とても全部見切れるものではありません。買い物客の顔ぶれを見ると、タイ人ももちろん多くいるのですが、欧米人やアラブ系の人々も数多く見られます。

 MBKと道路を挟んで向かいには、サイアム・スクエアという、東京でいうと原宿のような街があり、夜になると多くの若いタイ女性でごった返しています。

 エンボリウムも日本人が数多く居住する地区にあり、高級層向けの商品を販売しています。

 やや意外だったのですが、バンコクには周辺国からの買い物客が続々とやって来るのだそうです。インドやミャンマーアラブ諸国からもやって来るということは、バンコクがそれだけ安く多くの品が揃う商業地であることを意味しているのでしょう。確かに、旧来からあるマーケットも加えれば、バンコクでは質の良い物も悪い物も、とにかく何でも揃います。

 バンコクの旺盛な消費を支えているのは、近年急激に台頭してきた高級層です。これらの高級層の多くは華僑系だそうです。タイという国の経済も金融面を牛耳っている華僑系の人々が支えているそうです。タイでは相続税を取られないので、こうした高級な階層が生まれるわけです。おそらく、こうした高級層は更に増えていくでしょうし、また中間層も相当な勢いで伸びている印象です。MBKは比較的中間層をターゲットとしたモールですが、大勢の中間層が自家用車で乗り付けて買い物をしています。タイの中間層を対象にしたスーパーでは日本製の商品も数多く並べられています。バンコク経済成長はやや鈍化したとはいえ、直近でも前年同期比で6.7%も成長しています。その背景には自動車産業の好調があります。タイには多くの日本の自動車メーカーが進出していますが、輸出向けだけでなく、その半数近くが国内向けに販売されているのです。いかにタイの中間層が活況であるかが分かります。

 実は、タイの失業率というのは大変低いことで知られています。直近でもなんと1%を割っています。そう言われてみると、前回バンコクを訪問したときに比べると、物乞いの数が圧倒的に減ったような気がします。タイは既に途上国と呼ぶに相応しい国ではなくなっています。

一大コミュニティとしての日本社会

 バンコクでは数多くの日本語の広告や看板を見かけます。

 タイには自動車関連を始めとする数多くの日本企業が進出しており、直近ではタイの日本人の数は4万7千人とのことですが、実際は10万人程度いるのではないかという声が多く聞かれました。日本人をターゲットにしたフリーペーパーも15誌くらいあるということです。

 さらに近年、バンコクでは日本食ブームが起こっています。日本料理店がこぞってオープンしていますし、またラーメンや定食屋のチェーン店が展開を進めています。実にあちこちで日本料理が食べられるのです。

 こうした日本料理店にはピンからキリまであり、中間層でも比較的手が届きやすいものから、在タイ日本人やタイ人の高級層をターゲットにしたものまで様々です。日本食は味が良いこともさることながら、ヘルシーという面でも人気があるようです。タイ人の高級層の中には、日本食を食べることを主な目的としてわざわざ日本に足を運ぶ人たちもいるようです。

 日本絡みでいえば、周知のとおり、ドラえもんやキティちゃんのキャラクターをあちこちで目にしました。小さい頃から漫画のキャラクターなどに接している若者が増えていることも、もしかすると日本食ブームと全く無関係ではないのではないか、と思ったりもしました。

 いずれにしても、アニメや日本食などを通じて日本の文化を理解し、日本に興味や親近感を持ってくれるタイ人が増えることは、良いことであることは疑いありません。

アユタヤ遺跡

 アユタヤはバンコクから車で一時間ほど離れた場所にありますが、今回初めて足を運んでみました。 アユタヤ王朝はウートーン王が1350年に建国した国家で、その後417年続きます。当時のタイは東南アジア文明の中心であり、日本からも山田長政が訪れ、日本人町が形成されていたことでも知られています。やがてアユタヤは、ビルマとの戦いに敗れ、アユタヤも大きな被害を受けることになりますが、今でも残る遺跡からは当時の栄華の様が浮かんできます。

 アユタヤを象徴する遺跡としては、マハー・タート寺院にある、木の幹に仏様の顔が埋め込まれている遺跡があります。

 ワット・プラ・シー・サンペートには巨大な仏塔が3つ並んでいるのが圧巻です。

 ウィハーン・プラ・モンコン・ボピットには、大きな仏像が安置されています。


 街中を像が観光客を乗せてゆっくり巡っている光景も見られます。

 世界遺産に登録されているだけあり、これだけの物が破壊を受けながらもよく残っているなぁという感じです。頭部のない仏像が並んでいるのは痛々しいですが、仏塔などはよく残っています。あたかも一つのテーマパークのように、多くの遺跡が集中してます。

感想総括

 バンコクの様相はここ数年で大きく変化を遂げてきました。個人的な印象で言えば、人々が少し成熟してきた感じもしました。細かいことを気にせずにおおらかに過ごすというタイ人らしさは、むしろかえって目立ってきているような気すらします。
 もちろん、華僑系の人々とタイ系の人々とでは違いはあるでしょうから一概には言えませんが、今回接したタイの人々も実に笑みに溢れていた印象を受けます。

「コープ クン カ」(ありがとう)

という言葉の響きが何と素晴らしいことか!笑顔でこのフレーズを言われると、あぁ、タイっていい国なんだなぁと思わずにはいられません。

 また、今回改めて感じたのは、女性の強さです。ラッシュアワーにもまれながらオフィスに足を運んでいるのは、女性ばかりであるかのような印象さえ受けました。それくらい、女性しかも若い女性が目立ち、勤勉に動き回っているのがタイという国です。

 事実、バンコクの女性の多くは仕事に出ているので、あまり家で食事を作らないそうです。だからこそ、街のあちこちに屋台がずらっと並んでいるわけです。バンコク住居の中には、家で食事を作ることを想定したキッチンすらないものもあるそうです。

 タイらしいおおらかさを失わずに更なる経済発展を続けていくことができれば、タイ社会は新たな成熟社会の在り方を提示できるのではないか、そんな期待を抱きました。

 夕暮れ時にチャオプラヤ川ごしに見るワット・アルンは大変印象的でした。