映画、書評、ジャズなど

松浦寿輝「名誉と恍惚」

名誉と恍惚(上) (岩波現代文庫 文芸357) 作者:松浦 寿輝 岩波書店 Amazon 名誉と恍惚(下) (岩波現代文庫 文芸358) 作者:松浦 寿輝 岩波書店 Amazon 以前読んだ『香港陥落』につながる大作です。 舞台は戦前の上海。日本人の警察官芹沢が、陸軍将校の嘉山…

加藤シゲアキ「なれのはて」

なれのはて 作者:加藤シゲアキ 講談社 Amazon 直木賞候補になった作品です。惜しくも受賞は逃してしまいましたが、巧みなプロット、繊細な表現で読者を虜にさせる著者の筆力に圧倒されます。 話はテレビ局のイベント企画部門の女性職員が持っていた一枚の絵…

「君たちはどう生きるか」★★★★☆

近年、これだけ賛否両論を巻き起こした作品はなかったかもしれません。 ゴールデングローブ賞のアニメ映画賞を受賞したことが報道されましたが、ちょうどその日に鑑賞してきました。 戦争中、真人は母親を火事でなくす。その後、父親と共に田舎に引っ越すが…

レイモンド・チャンドラー「ロング・グッバイ」

ロング・グッドバイ フィリップ・マーロウ〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫) 作者:レイモンド チャンドラー 早川書房 Amazon 久々に読み直してみましたが、さすがによく練れているミステリーです。そして、何と言っても村上春樹氏の翻訳が読みやすく、グ…

「PFRFECT DAYS」★★★★★

ヴィム・ヴェンダース監督が役所広司を主役にして製作した作品で、役所広司はカンヌで男優賞を受賞した作品です。 ユニクロの柳井社長の息子さんでもある柳井康治氏が渋谷のトイレを刷新するプロジェクトをPRする目的で計画したものです。 役所広司演じる中…

佐藤究「幽玄F」

幽玄F 作者:佐藤究 河出書房新社 Amazon 著者の前作『テスカトリポカ』が素晴らしい作品だったので、この新作を手に取ってみました。 著者の謝辞によると、三島由紀夫の超音速戦闘機の搭乗体験記に強い影響を受けているようです。 主人公の透は戦闘機のパイ…

「アラビアのロレンス」★★★★★

アラビアのロレンス (字幕版) ピーター・オトゥール Amazon かつて何度か観た映画でしたが、昨今のイスラエル・パレスチナ情勢を鑑み、再度大型スクリーンで鑑賞しましたが、今の中東の混迷の原因を端的な掴むのに最適な作品であることを改めて認識しました…

小川哲「地図と拳」

地図と拳 (集英社文芸単行本) 作者:小川哲 集英社 Amazon 少し前に読了した作品でしたが、余韻の深い読後感故に、なかなか書評が書けずにきてしまいました。 満州という広大な土地の一角の架空の都市を舞台に、様々な立場の人々が関わり合い、新しい都市を建…

和歌山紀行

この年末は、東京の喧騒から逃れようと、和歌山県を旅してきました。南紀の方は鉄道で行くと思ったよりもかなりの時間がかかり、これまでなかなか行く機会がありませんでしたが、今回初めて勝浦や白浜に足を伸ばしてみました。 1. 紀伊勝浦探訪 名古屋で新幹…

阿刀田高「ナポレオン狂」

ナポレオン狂 (講談社文庫) 作者:阿刀田高 講談社 Amazon 最近は歩いたり走ったりしながらaudibleで小説を聴くことが多くなったのですが、audibleは短編小説と相性が良いように思います。 そんなわけで、阿刀田高さんの作品とはaudibleで初めて接することに…

「サタデー・フィクション」★★★★

太平洋戦争が開戦する前夜、上海の地に一人の大物女優ユー・ジン(コン・リー)が降り立った。「サタデー・フィクション」という演劇に出演するためだった。 ユー・ジンはかつて孤児院からフランス人の諜報員の手によって救い出された過去を持っており、暗号…

有栖川有栖「46番目の密室」

新装版 46番目の密室 (講談社文庫) 作者:有栖川有栖 講談社 Amazon 主人公のミステリー小説家アリスと臨床犯罪学者の火村が登場するシリーズの第一作で、本格的なミステリーです。推理小説家の大家の家のパーティーに集まった関係者たち。その中にはアリス…

東野圭吾「クスノキの番人」

クスノキの番人 (実業之日本社文庫) 作者:東野 圭吾 実業之日本社 Amazon 会社を不当に解雇され、その腹いせに犯罪をしてしまった主人公玲人が、親族からクスノキの番人を指示される話です。クスノキには、多くの人たちが祈念にやってくるが、それがどういう…

真山仁「コラプティオ」

コラプティオ 作者:真山 仁 文藝春秋 Amazon 国民に人気のある宮藤総理と、それを支える秘書官の白石、そして宮藤を巡る特ダネ記事を狙う新聞記者の神林を中心とした政治ドラマです。 大震災後に一旦は後退した原発政策だったが、宮藤はその立て直しを画策す…

濱嘉之「天空の魔手」

警視庁公安部・片野坂彰 天空の魔手 警視庁公安部・片野坂彰シリーズ (文春文庫) 作者:濱 嘉之 文藝春秋 Amazon 警視庁公安部片野坂彰シリーズの最新刊です。 中台関係の緊張が高まる中、片野坂のチームはドローンを用いた「対日有害活動の排除」を計画。片…

浅田次郎「シェエラザード」

シェエラザード(上) (講談社文庫) 作者:浅田次郎 講談社 Amazon シェエラザード(下) (講談社文庫) 作者:浅田次郎 講談社 Amazon 戦時中に多くの民間人を乗せたまま沈没した弥勒丸を引き上げるプロジェクトを巡る物語です。 大手金融機関を辞めた軽部と元…

東野圭吾「白夜行」

白夜行 (集英社文庫) 作者:東野圭吾 集英社 Amazon これまで東野圭吾さんの作品で読んだことがあるのは、『容疑者Xの献身』のみでしたが、この『白夜行』も大変素晴らしい作品でした。 大阪の廃墟ビルで質屋の社長が死体となって見つかる。容疑者として疑わ…

松浦寿輝「香港陥落」

香港陥落 作者:松浦寿輝 講談社 Amazon 香港のペニンシュラホテルを舞台に、日英中の3か国の男が語り合う小説です。 登場人物は、日本人で元外交官の谷尾、ロイター通信に勤務しているという英国人のリーランド、そして商売人の中国人の黄。3人は、日本軍が…

「BLUE GIANT」★★★★☆

今話題の映画の一つです。仙台でジャズミュージシャンを志す若者が状況して、成長していく過程を描いた作品です。 世界的なジャズピアニストの上原ひろみさんが音楽を担当しているだけあって、音楽のクオリティがとても高くできあがっています。 宮本大は、…

真山仁「ハゲタカ」

新装版 ハゲタカ 上下合本版 (講談社文庫) 作者:真山仁 講談社 Amazon 前から読みたいと思っていた作品ですが、やっと手にしました。 一言で言えば、素晴らしいとしか言いようがありません。その時代の肌感覚がよく描かれていますし、豊富な金融の知識が埋め…

米澤穂信「Iの悲劇」

Iの悲劇 (文春文庫) 作者:米澤 穂信 文藝春秋 Amazon 住民がいなくなった地方の集落に移住者を募る市役所職員の話です。いくつかのエピソードから成っており、最後に裏が明かされるという構成です。 主人公の万願寺は、市の甦り課で、移住者のケアやトラブ…

「モリコーネ 映画が恋した音楽家」★★★★☆

観たかった作品でしたが、やっと観ることができました。評判通りの素晴らしい作品で、関係者のインタビューを巧みに編集して、全く飽きない構成となっています。 モリコーネは、トランペッターの父親の影響で、音楽学校に入学します。そこでペトラッシに師事…

小川哲「嘘と正典」

嘘と正典 (ハヤカワ文庫JA) 作者:小川 哲 早川書房 Amazon 小川哲氏といえば、最近「地図と拳」で直木賞を受賞されたことで話題ですが、この作品は短編集です。 「魔術師」は、伝説的はマジシャンとその娘の話。マジシャンの父はタイムマシンというマジック…

カルロス・ルイ・サフォン「天使のゲーム」

天使のゲーム 上 (集英社文庫) 作者:カルロス・ルイス・サフォン 集英社 Amazon 天使のゲーム 下 (集英社文庫) 作者:カルロス・ルイス・サフォン 集英社 Amazon ルイ・サフォンの『風の影』の続編です。前作と同様、バルセロナを舞台にした小説で、「本」を…

バリー・ランセット「トーキョー・キル」

トーキョー・キル 私立探偵ジム・ブローディ (ホーム社) 作者:バリー・ランセット 集英社 Amazon 私立探偵ジム・ブローディを主人公とするシリーズの2作目です。 東京を中心に横浜中華街、フロリダ、さらにはバルバドスへと舞台が展開していく壮大なミステリ…

黒木亮「カラ売り屋vs仮想通貨」

カラ売り屋vs仮想通貨 (角川書店単行本) 作者:黒木 亮 KADOKAWA Amazon どこかの企業の株価を下げることで儲けを得ることを生業とするカラ売り屋の攻防を描いた3つの短編集です。 「仮想通貨の闇」は、仮想通貨業者とカラ売り屋との攻防を描いた作品です。…

「土を喰らう十二ヵ月」★★★★☆

tsuchiwokurau12.jp 作家の水上勉の「土を喰う日々 わが精進十二カ月」を基に製作された作品です。 ジュリーこと沢田研二が主演です。 作家のツトムは、長野の山奥で畑を耕しながら質素に料理をしながら暮らしている。それに注目した編集者真知子(松たか子…

「2046」★★★☆

2046 4Kレストア UHD+Blu-ray [Blu-ray] トニー・レオン Amazon 2004年の香港映画で、ウォン・カーウァイ監督の作品です。恵比寿のガーデンシネマでリマスター版を上映していたのを鑑賞しました。トニー・レオン、チャン・ツィー、コン・リーなど、蒼々たる…

米澤穂信「満願」

満願(新潮文庫) 作者:米澤穂信 新潮社 Amazon 2014年に刊行された短編ミステリー集で、ミステリー賞3冠に輝いた力作です。 「夜警」は、交番に配属された新人警官の話。犯人に発砲したものの自らも刺されて殉職する。正義感に駆られての行動にも見られた…

荒木あかね「此の世の果ての殺人」

此の世の果ての殺人 作者:荒木あかね 講談社 Amazon 今年の江戸川乱歩賞に審査員全員一致で選ばれたミステリー作品です。 著者は23歳での受賞ということで、本作品がデビュー作です。 小惑星が熊本県に間もなく衝突して地球が滅亡することが明らかな世の中を…