映画、書評、ジャズなど

「グランド・イリュージョン」★★★☆

 

ルイ・レテリエ監督による2013年の作品です。4人のマジシャンがマジックを駆使して次々と金を奪い、FBIを出し抜く作品です。

 

4人はタロットカードに書かれた場所に集められ、“フォーホースメン”というユニットを組んでスーパーマジシャンにのし上がる。ラスベガスのショーでは、観客をパリにワープさせ、パリの銀行から現金を略奪して、観客に配るというマジックを披露した。

次に、ニューオリンズでは、自分たちのスポンサーである富豪の預金口座を、災害の被災者たちの口座に移し替えてしまう。

FBIは彼らを犯罪者として摘発したいが、見破ることは困難だった。そこで、マジシャンたちのトリックを見破ることを生業としていたサディアスの力を借りる。

FBIで捜査を担当していたディランは、インターポールから派遣されたメラニーと共に捜査に当たる。フォーホースメンのアジトを襲撃するも、逃亡される。

さらに、フォーホースメンは、金庫を強奪して、FBIと最後の対決を迎える。盗まれたと思った金庫には夥しい風船が。現金はなぜかサディアスの車に詰められており、サディアスは逮捕される。

ディランは収監されているサディアスに面会に行く。ディランは、実はマジシャンの秘密結社のメンバーであり、フォーホースメンを陰でサポートしていたことを打ち明ける。マジシャンだったディランの父は、昔サディアスに追い詰められ、命を落としていたのだった。。。


グランド・イリュージョン 本予告

 

 

 4人のマジシャンたちが、強い者から巻き上げたお金を弱者に分けていくというストーリーは何とも痛快です。彼らと対峙しているFBIで中心的に捜査に当たっていたディランこそが彼らのサポーターだったという結論も、意表をついて面白い展開でした。

ただ、全体を通じて、どこか説得力に欠ける部分もあったことも事実です。4人の力だけであれだけのマジックを次から次へと披露することは、いくらフィクションといえども違和感を感じてしまいます。古代からマジックを守って来た「アイ」という結社のくだりも、フォーホースマンとの関連性が今一つしっくりきません。一時期ぎくしゃくしていたディランとメラニーが最後恋愛感情を抱くようになるのも、唐突感がありました。カーアクションのシーンも、あまり本筋と関係なかったように思いますし、その結果命を落としたはずのメンバーの1人が、実は死体安置所から奪われてきた死体だったというのも、う~んと思ってしまいます。

 

まぁ、指摘すればいろいろあるのですが、ただ、全体的にゴージャスな映像は楽しめますし、エンターテイメントとしてはしっかり楽しめる作品でした。

「ソイレント・グリーン」★★★★

 

 1973年のチャールストン・ヘストン主演の作品で、2022年の世界を描いたSFディストピアです。

時は2022年。人々は貧困にあえぎ、食料の供給もままならない状況で、人々はソイレント社がプランクトンから製造するソイレント・グリーンという食料の配給に頼っていた。

そんな中、ソイレント社の幹部だったサイモンソンが何者かに殺害された。その捜査に当たってのは、ソーン刑事(チャールストン・ヘストン)だった。ソーンは、ソルという老人と2人で暮らしていた。

ソーンの捜査は大きな力によってことごとく妨害される。

そして、老人ソルは、ソイレント社の隠された秘密を知ることになる。そして絶望のあまり、“ホーム”と呼ばれる安楽死施設に向かう。そこでは、クスリをうたれてリラックスした状態で、かつての美しかった自然の映像に囲まれながら、好きな音楽を聴きながら死を迎えることができる。

ソーンはソルの最期の瞬間に立ち会う。そして、そのままソルの遺体が運ばれる施設に潜入した。そこでは、なんと、ソイレント・グリーンが製造されていた。ソイレントグリーンの原料は人間だったのだ。

ソーンはその後銃撃されてけがを負う。運ばれる際、ソーンはソイレント・グリーンの闇を訴えるのだった。。。


Soylent Green - Trailer

 

 

 この作品では、富豪と暮らす若い女性が“家具”と呼ばれるなど、人間の尊厳が徹底的に否定された世界が描かれています。

人間が人間を食べるという何とも衝撃的な状況なわけですが、この作品を観て思い出すのは、かつて大きな社会問題となった肉骨粉によるBSE問題です。ある意味、牛を共食いさせることで招いた病気なわけですが、同様の事態が人間について描かれると、なおさら衝撃的です。

人口が膨張した世界においてこうしたシステムが構築されることはもちろんあり得ないと思うわけですし、映画ならではの究極的に歪んだ世界が描かれているわけですが、この作品を観ると、そうした世界が絶対にあり得ないという信念が揺らいでしまいます。それくらい、説得力を持って描かれています。

 

こうした架空の状況を説得的に表現できるというのは、正に映画の持つ最大の力であるようにも思います。

 

いろいろ考えさせられる作品でした。

 

 

 

「終電車」★★★★

 

終電車 Blu-ray

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 フランソワ・トリュフォー監督の1981年の作品です。

カトリーヌ・ドヌーヴの演技が光っています。

 

舞台は第二次大戦中のドイツ占領下のパリ。モンマルトル劇場の支配人であり演出家のユダヤ人ルカ・シュタイナーは、劇場の地下に身を潜め、妻のマリオンが支配人兼女優として活動していた。

劇場では、ルカが書いた『消えた女』の上映に向けて稽古が行われていた。新人のベルナールがマリオンの恋人役として起用された。

マリオンは毎晩ルカの下を訪れ、ルカは通気口から聞こえる稽古の音を聞きながら、アドバイスを与えていた。

『消えた女』は好評だったが、唯一ドイツ寄りの批評家ダクシアは辛口の批評を乗せた。ベルナールはダクシアに対し、マリオンに謝るよう喧嘩をふっかけ、それ以降、マリオンはベルナールと口をきかなくなった。

ベルナールは役を降りることをマリオンに告げる。実はマリオンはベルナールに恋心を抱いていたのだった。ルカもそのことを悟っていた。2人は口づけを交わし抱き合う。

やがてドイツ軍が一掃され、ルカも表に出られるようになった。マリオンはルカの演出で再びベルナールと共に舞台に立っていた。。。

 

ラストシーンの演出はトリュフォー監督らしさが光っていました。舞台を降板し去っていったベルナールが入院している病院をマリオンが訪れる。ベルナールはマリオンにもう愛はないので帰ってくれと伝える。そしてベルナールは起き上がり、マリオンと手をつなぎ、看護師たちも手を取り、カーテンコールのシーンへ。病室だと思われたのは、実は舞台の上だったのです。この観客をあっと言わせるラストシーンは、さすがトリュフォー監督です。

 

ずっと暗い雰囲気で来たのが、ラストでパッと明るくなり、とても後味のいい作品でした。

「ワン・フロム・ザ・ハート」★★★

 

ワン・フロム・ザ・ハート [DVD]

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 コッポラ監督の作品ということで見てみました。ラスベガスを舞台にした80年代の恋愛映画です。

 

小さな旅行会社に勤めるフラニーは、恋人のハンクと5年間同棲していたが、互いの浮気を巡って喧嘩となり、フラニーは家を飛び出す。

ラニーは、旅行会社のショーウィンドウで作業していたところ、ピアニストのレイから声をかけられ、2人は恋に落ちる。

一方、ハンクもサーカス一座のライラという娘に声をかけ、2人は車で砂漠に出かけ、ロマンスに落ちる。

しかし、ハンクはフラニーのことが気になり、フラニーとレイが寝ているホテルに押しかけ、フラニーを連れ去る。しかし、フラニーのレイへの心は変わらず、2人はボラボラ島に向かう飛行機に乗り込む。ハンクは、搭乗直前までフラニーに戻ってくるように説得したが断念。失意の中、家に帰ると、やがてフラニーも戻って来たのだった。。。

 

コッポラ監督にしては、平板な恋愛作品で、しかも、最後になぜフラニーが戻って来たのかも、あまり説得力もなく、違和感が残る面が否めません。

 

作品中、ずっと音楽が流れているのですが、その歌詞と作品内容もそれほどマッチしているわけでもなく、演出としてはあまり効果的でなかったように思います。

 

ちょっと残念な作品でした。

「カーライル ニューヨークが恋したホテル」★★★★☆

 

thecarlyle-movie.com

カーライルホテルを巡る様々なエピソードを集めたドキュメンタリー映画です。従業員たちがまるで家族のように温かくゲストをもてなす姿勢が、とてもほのぼのした空気を醸し出しており、心温まります。

ホテルの従業員たちから評判がいいゲストは、ジャック・ニコルソンジョージ・クルーニーです。2人とも、従業員たちに気さくな態度で接していたようで、人柄の良さが画面を通じて伝わってきます。ジョージ・クルーニーは、この映画の中でかなり長時間のインタビューにも応じており、家族ぐるみでカーライルホテルを愛していることを告白しています。

この作品は、あまり知られていないセレブにまつわる多くのエピソードが登場します。例えば、ポール・ニューマンがホテルのレストランでドレッシングを自分で調合し、それを商品化したという話。ホテルの従業員が、ドレッシングの商品化に関与できたことを誇らしげに話しているのが印象的です。

また、エレベーターで、ダイアナ妃とマイケル・ジャクソンスティーブ・ジョブズが一緒に乗ったという話。エレベーターの中は沈黙が続く、、、ダイアナ妃が♪Beat Itを口ずさむまでは、、、という話は、その情景が目に浮かぶようです。

長年エレベーターのスタッフを務める男性が、20秒間の会話ならおまかせください、と誇らしげに話す姿が、とても印象的です。個々のスタッフが誇りを持って仕事をしていることが、カーライルホテル全体の信頼性や質の高いおもてなしにつながっていることを感じます。

このほか、レニー・クラヴィッツもインタビューに応じ、幼い頃から両親に連れられて、カーライルホテルの演奏を聴きに来ていたことを告白しています。

カーライルホテルの演奏といえば、ピアノの弾き語りを長年務めてきたボビー・ショートです。この作品でもボビー・ショートは何度も登場しますが、彼が長年にわたっていかに多くの人々を魅了してきたかが伝わってきます。


Bobby Short Performs at The Carlyle

その他、ソフィア・コッポラトミー・リー・ジョーンズナオミ・キャンベルなどなど、そうそうたる顔ぶれのセレブ達がインタビューに応じ、カーライルホテルへの愛を語っています。


『カーライル ニューヨークが恋したホテル』予告編

 

挙句にはケネディ大統領とマリリン・モンローが秘密の通路を使って密会していたという真偽不明な話まで登場します。

 

とにかく、きらきらと輝くような珠玉のエピソードが次々と披露され、ホテルのスタッフとゲストのセレブ達の相思相愛の関係がとても美しいです。

 

コンシェルジュのドワイトは、吃音に悩ませられながらも、多くのゲストたちの信頼を得てきました。しかし、そのドワイトがカーライルホテルを去ることになります。しかし、多くの若いスタッフたちは、ホテルマンとしての誇りに満ち溢れており、ドワイトのおもてなしの心がしっかりとカーライルホテルに受け継がれていることを感じます。

 

バックの音楽も素晴らしく、映画の雰囲気をうまく作り上げていました。中でも、US Navy Bandの♪Begin The Beguineは何度も作中に流れていてとても印象的でした。

www.youtube.com

 

とても素晴らしい映画でした。

伊集院丈「雲を掴め」「雲の果てに」

 

雲を掴め―富士通・IBM秘密交渉

雲を掴め―富士通・IBM秘密交渉

 

 

雲の果てに―秘録 富士通・IBM訴訟

雲の果てに―秘録 富士通・IBM訴訟

 

 

2007年、2008年に刊行された小説です。この2つの書の著者は、かつて富士通で、IBMとの互換機を巡る係争の責任者を務めた方で、前者が富士通とIBMが秘密契約を締結するまでを描いており、後者はその後に起こる仲裁を描いています。フィクションという形をとっていますが、実際に起こったことをベースに書かれていると言われており、実に緊迫感に溢れた作品であるとともに、当時の日本企業の戦略とその限界が垣間見える点が興味深いところです。

 

本書が描く交渉は、当時主流だった大型汎用コンピュータを巡るものですが、当時の状況については、松崎稔氏及び國領二郎氏の解説に詳しくまとめられています。IBMは1964年に汎用コンピュータS/360を発表しますが、その後に追加されるモデルも「360アークテクチャ」に基づくものとすることで、ユーザーは古いモデルの上で開発したプログラムを新しいモデルでも使い続けることができるというものです。国産メーカーは、こぞってIBMのOSを解読し、富士通も日立と組むことで、IBM互換アーキテクチャのMシリーズを開発します。

 

そして、富士通がIBM互換ハード・OSのヨーロッパ向け輸出を始めたことで、大きな危機感を抱いたIBMは、富士通知財侵害に基づく交渉を持ち掛けます。一旦は和解契約書を始めとする秘密契約が締結されますが、その後、IBMは米国仲裁協会に仲裁の申立てを行います。米国仲裁協会は結局1988年に最終裁定を出し、富士通はIBMに対し、一定のライセンス料(約1千億円)を支払うことになりますが、これは富士通が予想した額よりは少ないものでした。しかも、富士通に将来の互換の道を与えるものでした。

しかし、せっかく紛争が解決したというこの時期、汎用コンピュータの時代も峠を越えようとしており、1990年代に入ると、マイクロソフトはOSさえもハードウェアを問わず利用可能とし、IBM互換機の意味は薄れていくことになります。こうした状況の中、IBMとの交渉の最前線で奮闘してきた著者も、富士通から戦力外通告されるというのが、何とも切ないです。

 

さて、このような状況を小説として赤裸々に描いた伊集院氏の作品ですが、いろんなことを考えさせられます。高度成長期の中、国産メーカーは技術力を磨いて、必死に海外メーカーにキャッチアップしてきたわけですが、その中心の一つであるエレクトロニクス分野の企業がやってきたことは、結局、独自のマーケットを切り開くというよりも、既にIBMが切り開いたマーケットの顧客を、いかに自分たちの方へ引っ張るかという努力だったわけです。そのためには、IBMのコンピュータ上で作成されたプログラムが動くようなコンピュータの開発が必須であったわけです。

 

他方、本書のテーマの柱の一つである知的財産の観点で考えてみると、一筋縄にはいきません。当時、こうしたOSプログラムをいかなる権利として保護すべきかは、日本でははっきりしていませんでした。著作権法で保護すべきという米国に対し、日本独自のプログラム権法を制定する動きもある中、結果的には著作権法で保護されることになります。また、IBMも当初はこうしたOSプログラムをパブリックドメインとする戦略をとっており、必ずしも権利として保護しようという意志を持っていたわけではありません。だから、仲裁においても、著作権論議は避けられ、いかなる権利に基づくものかは曖昧にされています。

 

ただ、いずれにしても、結局、知的財産を生み出し、守ろうとする海外メーカーに対して、知的財産を利用したい国産メーカーという構図なわけで、日本企業は知的財産を生み出し、守るという発想にはないわけです。この点に、日本企業の限界があるように思います。

 

本書を読んでいて、富士通側の奮闘にどこか共感できず、釈然としない点が残ることになったのも、きっとこの辺の事情が関係しているように思います。

李 智慧「チャイナ・イノベーション データを制する者は世界を制する」

 

本書を読むと、もはや中国は先端分野のイノベーションで日本の先を行っていることを痛感せざるを得ません。本書では、そんな中国の数々のキラリと光るイノベーション企業が取り上げられています。

 

中国は政府を挙げてイノベーションの促進に力を入れています。例えば、大手インターネット企業や通信企業に呼びかけて、中小零細企業ベンチャー企業にプラットフォームへの接続、データ、計算能力等の資源を開放させるといったことを政府が中心に進めているとのことです。それから、海外からの帰国組の起業の後押しを政府が支援しているとのこと。北京には中関村サイエンスパークには、海外からの優秀な若手専門家が集められ、多くのユニコーンが誕生しています。

それからなんといっても中国の政策の最大の目玉は、ビッグデータ戦略でしょう。国家が市町村レベルからデータを収集し、国レベルの戦略的なデータベースを構築したり、それを中央・地方政府、市町村で共有できるようにするなど、政府の保有するデータの活用に積極的です。

そして、データ活用に向けた人工知能(AI)の推進に力を入れます。国務院は人工知能の分野に中国の有力企業を分担させて、その振興に力を入れています。

 

中国のイノベーションの起点になっているのは、モバイル決済です。スマホの普及とQRコードの活用が背景にありました。モバイル決済が爆発的に広がった結果、膨大なデータが蓄積され、その活用で様々なシェアリング・サービスなどのイノベーションが生まれるという循環が生まれているわけです。

さらには、芝麻信用のような個人の信用の点数化まで行われてしまうわけですが、個人情報を重視する欧米ではとても考えられないことです。本書によれば、中国では、便利だから良いという利便性を優先する考え方が主流なのだそうです。

 

本書では、アリババとテンセントについて詳しく触れられています。

アリババはかつて中国のEC市場で米国のeBayとシェアを争っていましたが、アリババが決済サービスのアリペイを導入すると、アリババはeBayに圧勝することになります。本書によれば、勝因は決済サービスだったとのこと。eBayはクレジット決済かネットバンキング決済をベースにした前払い方式を採用していたものの、信用情報が未整備な中国では広まらず、アリペイは買い手が代金をアリペイの口座に預け、送付された商品を確認して問題がなければ、アリペイに支払の指示を出し、初めて代金が売り手に支払われるという仕組みを導入しました。また手数料も無料化したり、損失を被った場合に全額補償するキャンペーンを展開するなどにより、中国市場のシェアを拡大していき、eBayは中国市場から撤退することになります。

さらにアリババは、個人資産運用サービスの「余額宝」(ユエバオ)を導入します。これは、アリペイ口座に滞留している資金を余額宝の口座に移せば、MMFで運用してくれるというサービスで、今では大手銀行の残高を超えているのだそうです。

 

 対するテンセントは、今では中国最大のSNSとなっていますが、もともとはインスタントメッセンジャーサービスでした。テンセントの戦略は、ウィーチャットの公式アカウントを解放した点にありました。これを企業が活用することで、チャット等の機能を通じて、テンセントの膨大な会員にアクセスすることができたため、多くの企業がこぞってテンセントの公式アカウントを開設するようになったとのこと。そして、ウィーチャットの決済インフラであるウィーチャットペイは、お年玉を配るイベントの開催により、多くの利用者を引き込みました。

アリババとテンセントの戦略の違いについて、本書は次のように述べています。

「テンセントが自ら事業を展開することをやめ、プラットフォームの提供に特化し、ある意味でパートナーに任せるといった「緩やかな結合」戦略を取ったのと対照的に、アリババは自ら事業を立ち上げる、もしくは企業との戦略提携を通じて自社のビジネスや決済機能との結合をより緊密にし、従来の業界を変革へと導き、次世代流通業や製造業、金融業を作り出そうとしていることに特徴がある。」(p160)

 

 このほかにも、この二強に追随する多くの企業が紹介されていますが、いずれの企業一つを取ってみても、日本には類を見ないベンチャー企業です。日本がいかにベンチャー企業の育成に失敗しているかを痛感せざるを得ません。

 

こうした中国企業の躍進を見るにつけ、イノベーションは大企業から生まれるのではなく、ベンチャー企業から生まれるのだと感じます。日本は、上位企業の顔ぶれは何十年も様変わりしていませんが、対する米国や中国では、数十年前のトップ企業で未だに上位に位置するような企業はほとんど皆無です。ここにイノベーションの差が生じてしまっているように思います。

 

この本を読むと、中国が日本に追いつけていないなどという幻想はあっという間に吹き飛びます。