映画、書評、ジャズなど

「シャイニング」★★★★☆

 

シャイニング [Blu-ray]

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 キューブリック監督の代表作といっても良いでしょう。もう何度も見ましたが、迫りくる狂気、恐怖心の描き方はぴか一です。

 

雪深いロッキー山脈に位置するホテルは、冬季は閉鎖される。その時期の管理人を志願したのが、小説家志望のジャックだった。ジャックは、静かに執筆できる環境を求め、妻のウェンディ―、息子のダニーと共に、このホテルに冬の間移り住むことに。

ダニーは、口の中にもう一人の人格が宿り、未来を予測できる特殊な能力を持っていた。

ホテルでは、かつて管理人として一家が滞在していたが、妻と2人の娘が父親に惨殺されるという凄惨な事件が起きていた。

特殊な能力を持つダニーは、当初から、ホテルで様々な幻覚を見る。廊下に立つ2人の少女、エレベーターの隙間からあふれ出す大量の血などなど。

小説の執筆が思うように進まないジャックも、次第に精神的に参っていき、妻のウェンディ―につらく当たるようになる。

そして、ホテルには近寄ってはいけないとされる部屋があった。そこでダニーは女性に首を絞められるという事件が起こる。ジャックがその部屋に行くと、そこには麗しい全裸の女性が。ジャックとその女性は抱き合うが、ふと鏡を見ると、その女性は腐敗しかけた老婆だった。

ジャックはいよいよ狂気となり、外界との連絡手段を遮断し、斧を持ってウェンディ―とダニーを追い回す。状況を心配したホテルの総料理長が到着したが、すぐにジャックによって殺害される。

庭の迷路に逃げ込んだダニーを追いかけていったジャックであったが、やがて、迷路内で力尽きて凍死する。。。

 

 

この作品の原作は、スティーヴン・キングの小説ですが、実際の小説と映画では、だいぶ相違点があるようで、スティーヴン・キングは、この映画に批判的だったことはよく知られています。

確かに、この映画のストーリー自体は、脈絡がない部分も多々あり、あまりよくできているように感じません。

他方、迫りくる恐怖感を描くカメラワークと陰鬱な音楽は、秀逸です。廊下に2人の少女が佇んでいて、それがドン、ドンと迫ってくるシーンは、観る者に底知れぬ恐怖感を抱かせます。

音楽は、カラヤン指揮のバルトークが効果的に使われています。


The Shining (1980) "Music for Strings, Percussion and Celesta" Béla Bartók.

 

ジャック・ニコルソンの鬼気迫る演技はとても素晴らしいです。この頃から既に素晴らしい俳優であったことが分かります。

 

理由を超えて、とにかく何度観ても飽きない作品だと思います。

「家へ帰ろう」★★★☆

uchi-kaero.ayapro.ne.jp

銀座のシネスイッチで鑑賞してきました。

ユダヤ人のアブラハムは仕立て屋をやってきたが、高齢となり、子供たちはアブラハムを施設に押し込もうとしていた。これに反発したアブラハムは、最後に仕立てた服を持って、故郷のポーランドに向けて旅立つ。ブエノスアイレスから、スペインのマドリードへ渡り、そこから列車でパリを経由してポーランドに向かう。

アブラハムは、その服を、かつて自分をホロコーストから救ってくれた恩人に渡そうとしていたのだった。

途中出会う若者たちに助けられながら、アブラハムはようやく目的の人に巡り合えたのだった。。。

 

着想は面白く、評判も良い作品でしたが、実際に見てみると、淡々と話が進み過ぎて、やや退屈な感も否めませんでした。

マイケル・バー=ゾウハ―「エニグマ奇襲指令」

 

エニグマ奇襲指令 (ハヤカワ文庫 NV 234)

エニグマ奇襲指令 (ハヤカワ文庫 NV 234)

 

 著者はブルガリア生まれ、その後イスラエルに移住し、新聞社の特派員を経て、イスラエル国防省の報道官を務め、従軍したり、国会議員になったりと、多彩な経歴の方です。

 

第二次大戦中のイギリス。ドイツのロケット開発が進んでいる中、ドイツの情報を入手するため、ドイツの暗号装置“エニグマ”を奪取する計画が練られた。MI6長官ボドリーがその実行役として白羽の矢を立てたのは、大泥棒のベルヴォアールだった。ベルヴォアールはかつてパリのゲシュタポの倉庫から金塊を盗み出した実績があった。

ベルヴォアールがフランスに渡ると、その情報は敵方に筒抜けだった。誰かがベルヴォアールのフランスへの渡航を敵に密告していたのだった。ベルヴォアールはかつての盟友を辿り、エニグマの奪取に向けた計画を続行する。ゲシュタポに追われる美女ミッシェルを引き込み、ドイツの国防軍高官のもとへ送り込み、エニグマの移送計画を仕入れる。しかし、それはドイツ側が仕掛けた罠だった。

その情報をもとに、フランスのレジスタンスのメンバーはエニグマ奪取計画を遂行するが、ドイツ側の反撃にあい、多くの犠牲者を出す。その中にはベルヴォアールは含まれていなかった。

ベルヴォアールは、ひそかに別のエニグマをターゲットにした奪取計画を遂行していた。偽物のエニグマを作り、それを本物とすり替え、それをドイツ軍の物資に紛れ込ませてドイツに送り込んでいた。しかし、ベルヴォアールがドイツでエニグマを受け取ろうとしたときに、ドイツの国防省高官の手で破壊されてしまう。

ベルヴォアールはロンドンに戻り、計画が失敗したことをボドリーに告げるが、ボドリーから驚くべき顛末を聞かされる。イギリスはエニグマを既に入手していたのだった。そのことがばれるのを隠すために、あえてエニグマの奪取計画をベルヴォアールに遂行させていたのだった。。。

 

ラストのどんでん返しは衝撃的でした。エニグマを入手している事実を隠すために、英国政府は、多くの犠牲を払ってまでも、エニグマ奪取計画をぶち上げたというわけです。国家が多くの人々の犠牲よりも、戦争に勝利することを選ぶ、というのは、戦時下の国家の判断としては、いかにもリアリティを持つストーリーです。

 

本書はとてもテンポよくスリルを楽しめる作品で、著者の他の作品も読んでみたくなりました。

「ボヘミアン・ラプソディ」★★★☆


今話題の作品をようやく観てきました。

幼少期をインドで過ごし、ロンドンに渡って来て、Queenのヴォーカリストとして大成功を収めたフレディ・マーキュリーの生涯を描いたものです。Queenの楽曲がふんだんに使われており、特に最後のライブ・エイドの場面で盛り上がりは最高潮に達します。

 

この作品は、フレディがロンドンでQueenのメンバーと出会う場面から始まります。ヴォーカリストとしてあっという間に頭角を現し、メジャーデビューを果たします。恋人もできるのですが、自らがバイセクシャルであることに気づき始め、フレディの悩みは深まっていきます。

また、大手レコード会社からソロとしての契約のオファーが舞い込み、メンバーとの関係もぎくしゃくします。結局、フレディはQueenのメンバーが必要であることを改めて認識し、ラストのクライマックスのライブ・エイドで見事なステージを披露します。

 


映画『ボヘミアン・ラプソディ』最新予告編が世界同時解禁!

全体を通して、フレディのバイセクシャル性にかなり焦点を当てた作品のように感じました。それはもちろん、フレディという人間を形成するに当たって、大きな比重を占めたことはその通りだと思います。

欲を言えば、フレディがブライアン・メイらのバンドに合流する前の苦労の時代についても描いてほしかったし、フレディの音楽性の部分についても、もっと深堀してほしかったという気もしないではありません。

 

ただ、そんな不満も、ラストのライブ・エイドの場面で吹っ飛びます。♪Bohemian Rhapsody、♪RADIO GA GA、♪Hammer To Fall、♪伝説のチャンピオン、の流れは絶妙で、思わず涙がこぼれます。

 

この作品の大成功は、やはりQueenの素晴らしい楽曲をふんだんに使ったことにあるような気がします。

 

「シマロン」★★★★

 

シマロン [DVD]

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1960年公開の西部開拓映画です。

19世紀後半の西部開拓の熱気がムンムン伝わってくる作品です。

 

お嬢様のセイブラは、両親の反対を押し切って、結婚したばかりの弁護士の夫ヤンシーとともに、西部オクラホマの「ランド・ラン」に参加する。ランド・ランとは、開拓地に新規に入植者を募集する際、号砲を合図に一斉に馬を走らせ、早い者勝ちで土地を獲得する命がけのレースだ。

ヤンシーは結局、希望する土地を獲得することができず、育ての親の後を継いで新聞社を経営することに。

だが、ヤンシーは新聞社経営だけで満足せず、持ち前の正義感が高じて、命の危険を冒して原住民を守ったり、ギャングと闘ったりして、何年も家を離れて、義勇兵に参加したりする。同じ時期に入植した他の人々の中には、石油を掘り当てたトムのように、大いに出世する者もいる中、いつまでも安定しない生活が続くことに対し、次第に妻セイブラの不満は溜まっていく。

あるとき、ヤンシーに知事に任命するのでワシントンに来るようにという電報が届く。今度こそは安定した生活を得られると、セイブラも喜ぶ。しかし、ワシントンに行ってみると、そこには石油で財を成したトムがいた。トムは、原住民の権利を奪ったということで、ヤンシーが新聞で批判した人物だった。トムが、ヤンシーを懐柔するために知事の任命を画策したと知り、ヤンシーは知事を断り、セイブラはヤンシーに憤る。

ヤンシーはその後、音信不通となる。セイブラは新聞社を切り盛りし、大きな企業へと育てた。ヤンシーは第一次大戦に英国兵士として参加しているとの情報があったが、その後、戦死したとの報がセイブラのもとに届く。

ヤンシーはオクラホマの英雄として銅像が建てらえれた。。。

 

さんざんヤンシーに振り回され続けたセイブラですが、晩年は、ヤンシーのことをようやく理解するようになっていくところが、とても清々しいです。

そして、「ランド・ラン」のシーンは圧巻です。膨大な数の馬と馬車が一斉に草原を駆け抜けます。途中、段差につまづいて多くの馬車が破壊され、多くの人々が馬から振り落とされ、中には後から迫る馬や馬車に轢かれて命を落とす者もいます。実際の情景がどうだったかは分かりませんが、土地の獲得に向けた人々の飽くなき欲求と熱気が見事に表現されたシーンです。

 

見ごたえのある作品でした。

梶谷懐「中国経済講義」

 

 中国経済の現状を中立かつ冷静に分析した良書です。世間には、中国の技術の凄さを強調する論調と、中国の暗部を強調する論調とが、ともすれば両極端に分かれる中、本書は、終始冷静な筆致で分析がなされています。

 

こうした観点から見て、本書で特に興味深かったのは、第6章「共産党体制での成長は持続可能か―制度とイノベーション―」です。著者は、中国の知的財産を巡り3つの層に整理できることを指摘します。

一つ目の層は「プレモダン層」で、知的財産権をまったく無視する層。

二つ目の層は「モダン層」で、ファーウェイやZTEのように、近代的な知的財産権によって、独自の技術をガッチリ囲い込む戦略を採用している層。

三つ目の層は、独自の技術を積極的に開放し、様々な人が関わることでイノベーションを促進していこうとする層。

著者は、これら3つの層が渾然一体となっているのが、深圳のエコシステムの一つの特徴だと指摘します。

また、著者は、深圳における「デザインハウス」の存在にひときわ注目しています。「デザインハウス」とは、無数のプレイヤーが乱立する中で、どの会社と付き合えばよいかについて指南してくれるガイドのような役割を担っています。この「デザインハウス」が、3つの層をつなぎ合わせ、相互に補完するエコシステムを構築しているというわけです。

 

現在の中国のダイナミズムを理解する上で、こうした説明は非常に説得的です。日本人はついつい中国の最先端の部分や遅れている部分に限定して注目しがちですが、総体として見ると、現状をよりを良く理解できます。

 

ただ、いずれにしても強調しておきたいことは、深圳の「モダン層」は、先端技術分野においては、日本企業のはるか先を行っているということです。この事実に目をつぶってはいけないと思います。

 

こうした冷静な中国経済分析が出てくることはて、今後、日本が中国にどのように対応していくべきかを考える上で大きな意義を持つと思います。

 

「ラルジャン」★★★★

 

ラルジャン ロベール・ブレッソン [Blu-ray]

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 ロベール・ブレッソン監督の1983年の作品です。この監督の作品を観るのは初めてですが、いかにもフランス映画といった雰囲気の作品で、冷たく淡々と話が展開されていきます。

 

ガソリンの集金にカメラ屋にやって来たイヴォンは、高校生が友人から渡されて使った偽札をお釣りとしてつかまされてしまい、それをカフェで使おうとして、逮捕されてしまう。

この件で、イヴォンは職を失い、やけくそになって、銀行強盗に加わり、投獄される。

イヴォンには家族がいたが、獄中で娘が亡くなったとの報を受け、妻からも見放されてしまう。

出獄後、イヴォンは、ホテルでオーナーらを次々と殺害。たまたますれ違った婦人の家に居候し、そこでも次々と人を殺めていくのだった。。。

 

 

他人にはめられ、社会に復讐する男の冷酷さが際立った作品ですが、結局、何の救いもなく、最後まで殺人を続けるまま、話は終わってしまい、ある意味、暗く絶望的な作品でした。