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「スリーピー・ホロウ」★★★★

 

スリーピー・ホロウ スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray]

スリーピー・ホロウ スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray]

 

ティム・バートン監督、ジョニー・デップ主演の1999年の作品です。

首切りがテーマなだけに、残酷なシーンのオンパレードのブラック・ファンタジー作品です。

 

ニューヨーク郊外の村で首切り事件が多発。しかも、首は見つからないという不可解な事件だった。その捜査を任されたのがクレーン(ジョニー・デップ)だった。村に乗り込んだクレーンは、村の富農のタッセルの家に泊まる。タッセルは、首を切られて殺害されたギャレットの親戚だった。

この村では、殺害犯はドイツ人傭兵の騎士の亡霊だと考えられていた。科学捜査を信じるクレーンはそれは迷信だと思っていたが、やがてこの騎士の亡霊の仕業だと信じざるを得なくなる。

このドイツ人騎士の亡霊は、死人の木の付け根から現れ、特定の人物の首を切りに村へ向かって、首を持って帰るのだった。誰かがドイツ人騎士の首を掘り起こして、それを使って自分の殺したい人物の首を刈らせているのだった。

クレーンは、タッセルがその犯人だと考えたが、ラッセル自身が亡霊によって首を刈られてしまう。タッセルの妻も首を刈られた状態で見つかる。クレーンはタッセルの娘カトリーナを疑うが、タッセルの妻が実は殺害されておらず、彼女が相続財産を手に入れるために、ドイツ人騎士の首を使って亡霊を操っていたことに気付く。

クレーンは、ドイツ人騎士の首を返還することに成功し、カトリーナを連れてニューヨークに戻った。。。

 

それにしても、残酷な首切りシーンが次から次へと登場します。とても子供に見せるような類のファンタジーではありませんが、ティム・バートン監督らしさは存分に発揮されています。恐怖感を煽る映像も素晴らしいです。

 

映画のすばらしさを存分に体感できる作品でした。

「エビータ」@シアターオーブ


【動画】ミュージカル『エビータ』メディアコール 2018.7.4@東急シアターオーブ

渋谷のヒカリエにあるシアターオーブで『エビータ』を鑑賞してきました。

ミュージカル『エビータ』は、アンドリュー・ロイド=ウェバー作曲、ティム・ライス作詞で、かつてはマドンナが映画で主演を演じた作品です。このコンビは何と言っても『ジーザス・クライスト・スーパースター』が有名ですね。

  


主演に抜擢されたエマ・キングストンの透き通るような美声ももちろん大変素晴らしかったですが、目玉のキャストは、チェ役を演じたラミン・カリムルーでしょう。イラン出身のカナダ人で、これまでも『オペラ座の怪人』などで主役を務めてきたミュージカル界のスターです。この作品でチェ役は狂言回し役で、民衆の圧倒的な人気を得るエビータの欺瞞をささやく大事な役どころです。その存在感はさすがでした。

 

エビータことエヴァ・ペロンは、1940年代にアルゼンチンの大統領ペロンと結婚した女優です。大統領夫人という立場で政治も介入し、1946年にはペロン大統領と共に「レインボー・ツアー」と呼ばれるヨーロッパ外遊を行い、エビータは各国で歓迎されたようです(これはミュージカルのシーンでも取り上げられています。)。

私生児として貧しい家庭で育ったにもかかわらず大統領夫人という立場を手にしたエビータは人気が高かったようですが(今でも人気が高いようです)、残念ながら若くして子宮頸がんに侵され、33歳で亡くなります。

その後、ペロン大統領も、その後クーデタでスペインに亡命することになります。しかし、その後再び母国に戻って大統領となりますが、間もなく心臓発作で死亡します。

 

それにしても、エビータのようなキャラクターが今でも人気があるというのは、アルゼンチンの国民性を表しているような気がします。

 

このミュージカルの目玉はやはり楽曲でしょう。これはマドンナ版の♪Don't cry for me Argentinaです。


Don't Cry For Me Argentina - Madonna

 

このほかにも、多くの有名歌手が美声で歌っています。


Karen Carpenter-Don't Cry For Me Argentina


Sinead O'Connor Don't cry for me argentina.flv

 

また、♪Buenos Airesもアップテンポのいい曲です。


Evita Soundtrack - 05. Buenos Aires

 

舞台からだいぶ遠い席だったのは若干残念でしたが、それにしても生の演劇は素晴らしいですね。

多和田葉子「胡蝶、カリフォルニアに舞う」

 

文學界2018年7月号

文學界2018年7月号

 

 これまた文學界7月号からですが、多和田葉子氏の短編がとてもユニークで、何とも言えない不思議な読後感を残してくれる作品でした。

 

主人公Iは、留学がうまく行かず、家族に内緒で米国から帰国し、迎えに来た優子に勧められるがままに、優子の家に転がり込む。翌日はある企業との採用面接が予定されていた。

翌日、Iは中央線に乗り込み面接に向かう。女性専用者に乗ってしまうが、なぜかIは女に見られていた。

面接先の社長室に入ると、別室に向かうように言われる。白い壁には、炊飯器に関する意味不明な話をする米国人が登場して辟易する。

 

Iが目を開けると、そこは米国に向かう飛行機の中だった。。。

 

 

とても不思議な「多和田ワールド」が繰り広げられています。

荒唐無稽でシュールな描写が次々と展開されていき、キツネにつままれた思いで鬱憤が募っていくのですが、最後の場面で、そうした感情がスーッと抜けていく感覚がとても爽快です。

 多和田氏の小説は、過去に「雪の卒業生」を読みましたが、ホッキョクグマを主人公とする3つの物語はいずれもとてもシュールです。



ドイツを拠点に世界中を行き来する著者ならではのシュールな世界観は、荒唐無稽であるものの、読者の心をつかんで離さない魅力があります。

 

それにしても、文學界7月号は、とても“当たり”です。

原田マハ「モダン」

 

モダン (文春文庫 は 40-3)

モダン (文春文庫 は 40-3)

 

ニューヨーク近代美術館(MoMA)にまつわる短編集です。絵画や美術館をうまくモチーフにした、心に残る作品ばかりです。

 

「中断された展覧会の記憶」は、MoMAが福島の美術館にアンドリュー・ワイエスの『クリスティーナの世界』を貸し出したものの、3・11の後に原発事故が起こり、展覧会の途中で絵画を返還してもらうことになった話。MoMAの展覧会ディレクターの杏子は、この絵と共にもう一度福島に戻ることを心に決める。。。

 

「ロックフェラー・ギャラリーの幽霊」は、MoMAの監視員のスコットが、ピカソの作品の前で佇む青年を目撃するという話。スコットは確かにその青年と言葉を交わしたのだが、モニターには青年は一切映っていなかった。その青年が名乗った名前は、亡くなったMoMAの元館長と同じだった。。。

 

「私の好きなマシン」は、インダストリアル・デザイナーのジュリアの話。ジュリアはニューヨークの書店の娘だったが、高校時代に両親と行ったマシン・アートの展覧会でベアリングの美しさの虜となる。そこには、両親の書店をしばしば訪れたMoMAの館長がおり、ジュリアは館長から、知らないところで役に立っていてそれでいて美しいものをアートと呼ぶと言われた。やがてジュリアは、知人から元館長が亡くなった知らせを受ける。同時に、ジュリアの元に、超有名IT起業家からオファーが入る。。。

 

「新しい出口」は、MoMAに勤務するローラが、同僚のセシルを9・11で亡くしてしまう話。ピカソが専門のローラとマティスが専門のセシルはそれぞれ、いつか大きい展覧会を仕掛けることを夢見ていた。そんな矢先に、この2人の巨匠の展覧会をいっぺんに仕掛ける話が持ち上がったのだが、その矢先に9・11が起こる。そのショックでローラはPTSDを患い、MoMAを去った。。。

 

「あえてよかった」は、日本の企業からMoMAに派遣された研修生の麻実の話。麻実は、MoMAのデザインストアのディスプレイで、日本の箸が×印に置かれていたのが気になり、MoMAで面倒を見てくれているシングルマザーのパティに相談する。パティは面倒くさそうに聞いていたが、翌朝には既に改善されていた。。。

 

 

以上がそれぞれの短編のあらすじですが、多くの作品で、美術館の裏方の人達にスポットライトが浴びせられ、しかも、とても魅力的な人物として描かれています。

美術館のスタッフというのは、本来とても重要で、欧米ではステイタスが高い職業ですが、日本ではあまりそうは見られていない感じがします。

そんな中、自身もキュレーターの経験がある著者は、様々な作品の中で、美術館の裏方的な人たちを描いていますが、こうした人たちにもっとスポットを当てたいという思いがあるように感じます。

 

作品中では、MoMAにまつわる様々な絵が取り上げられていますが、中でも、冒頭の作品中の『クリスティーナの世界』がもっとも効果的に使われているような気がします。草原で足の不自由なクリスティーナが力強く前に進もうとしている姿は、不幸な原発事故の後に懸命に前に進もうとしている福島の人々の姿とオーバーラップします。

 

著者の魅力が存分に発揮された素敵な短編集で、著者の他の作品をもっと読んでみたくなりました。

石原慎太郎「-ある奇妙な小説-老惨」

 

文學界2018年7月号

文學界2018年7月号

 

文學界の7月号では、村上春樹氏の書下ろし短編3本が掲載されていることは、先日の記事でも取り上げたところですが、同じ号で石原慎太郎氏が小説を発表されています。死期を悟った老人の周囲との会話を描いたものですが、これはどう見ても、石原慎太郎氏本人の心境を描いたものです。

作品では、三島由紀夫西部邁ら自ら命を絶った同士への言及があったり、家族に見守られつつ死にたいという願望が表明されていたり、人生において死線を超えてきた体験、米国の出版社からの版権購入のオファーを無視してしまったことへの後悔などなど、石原氏本人の本音であることが窺えるようなエピソードが多々出てきます。ジャズにまつわるエピソードも登場しているのも興味深い点です。

 

以下の主人公の言葉に、石原氏の現在の心境が凝縮されているような気がします。

「そして間もなく俺は死ぬ。人間の最後の未知、最後の未来を知ることになるのだが、その時果たしてそんなにそれを意識して味わうことが出来るものかな。最後の未知についてはもの凄く興味はあるが、それについてはその時点ではどう知ることも出来はしまい。それだけは悔しいがね。」

 

ご高齢でありながら、いまだに現役バリバリの作家として作品を世に問い続けている姿勢には頭が下がる一方、普段強気な石原氏のやや弱気な内面が垣間見られる点が興味深い、そんな作品でした。

 

必読の作品です。

 

 

 

「ジョーズ」★★★★☆

 

ジョーズ [DVD]

ジョーズ [DVD]

 

スピルバーグ監督による1975年の作品で、映画ファンでなくとも誰しもが知る作品です。

改めて見直してみると、とても迫力ある映像で、当時としてはいかに画期的な作品であったかが分かります。

 

米国の田舎の海岸で鮫に襲われる事件が多発する。警察署長のブロディは人々の安全を守るために遊泳禁止を主張するが、海水浴シーズンを目前に観光へのダメージを気にする市長は、必要以上に鮫が取り上げられるのを嫌い、遊泳を禁止しようとしなかったため、新たな被害者が出ることになる。

ブロディは、海洋学者のフーパ―と共に、漁師のクイントの船に乗って、鮫退治に海に出る。激しい攻防の末、クイントは鮫に襲撃され、船は沈没する。残った2人は鮫と激しい攻防の末、ようやく鮫を退治した。。。

 

その音楽はあまりに有名です。


ジョーズBGM

 

単なる鮫退治のストーリーだけでなく、鮫出没への対応を巡る行政内部の意見の対立が描かれている点が面白いです。

 

スピルバーグ監督が28歳のときの作品ですが、迫力ある映像を見ると、既に大物監督の片鱗を十分に見せているように思いました。

プーシキン美術館展@東京都美術館

pushkin2018.jp

 上野の東京都美術館で『プーシキン美術館展』を鑑賞して来ました。超一級のフランス絵画が展示されており、特に牧歌的な自然の風景を描いた作品が多く、とても楽しめました。

 

目玉は、クロード・モネの『草上の昼食』です。自然の中で寛ぐ貴族たちの幸せな時間が切り取られている感じです。

ルノアールの『庭にて、ムーラン・ド・ラ・ギャレットの木陰』、ポール・ゴーガン『マタモエ、孔雀のいる風景』やアンリ・ルソーの『馬を襲うジャガー』も見逃せません。

セザンヌの作品も数点あり、いずれの素晴らしかったです。

その他、個人的には、

・クロード・ロラン『エウロペの掠奪』

・ジャン=バティスト・マルタンナミュール包囲戦』

エドゥアール=レオン・コルテス『夜のパリ』

が印象的でした。

 

これも見逃せない展覧会の一つです。