映画、書評、ジャズなど

「裸のキッス」★★★★

 

裸のキッス [DVD]

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「チャイナ・ゲイト」に続き、サミュエル・フラー監督の作品です。最近、イマジカで放映されているのを、録画して観ました。とにかく、娼婦が男を滅多打ちにした後、かつらが外れて坊主頭になる冒頭のバイオレンスなシーンがあまりに印象的です。

 

娼婦のケリーが、田舎町を訪れる。そこに警察官のグリフが声をかけ、早速一夜を共にする。ケリーは娼婦から足を洗うことを決意し、障害者施設の看護師として勤務する。ケリーは天職を得たかのように、生き生きと働く。

やがて、ケリーは、富豪のブラントと恋をし、プロポーズを受ける。ケリーは、ブラントに過去を告白したが、ブラントはそれも受け入れたうえで婚約する。幸せ絶頂と思われたが、グラントが小児性愛者と知ったケリーは、ブラントを殴り殺す。

ケリーは拘束されるが、グラントに猥褻な行為をされた少女が判明し、ケリーは晴れて釈放された。。。

 

この作品は、とにかく冒頭のシーンがあまりに印象的です。ケリーが恐ろしい顔をして元締めの男を殴り倒して、金をふんだくるシーンは、あらゆる映画作品の中でもっともインパクトのある冒頭のシーンの一つでした。

そんなケリーが、娼婦の身から足を洗うのですが、冒頭のシーンが脳裏にこびりついた観衆は、常に冒頭のシーンがフラッシュバックされ、ケリーのひた隠された本性が見え隠れしてしまう効果を持ち続けます。

 

この作品では、音楽が効果的に使われています。冒頭の暴力シーンのバックで奏でられる激しいジャズ音楽。そして、婚約者との甘い時間のバックで流れるベートーベンの♪月光ソナタなどなど。

 

この監督は実に映画づくりの巧みさが際立っていると思います。

 

 

山下洋輔ソロ@第一生命ホール

 

https://secure01.red.shared-server.net/www.jamrice.co.jp/yosuke/schedule/tix2017solo/img/flyer_b.jpg

 

昨日は山下洋輔氏のソロコンサートを鑑賞してきました。毎年この時期にこのホールで開催されてきているようですが、客席はほぼ満席で、往年のファンが集まっているような印象です。

 

冒頭は、4月らしい曲ということで♪I Remember Aprilから始まり、♪やわらぎ、童謡をアレンジした♪さくら、♪早春賦と続きます。


早春賦(NHK東京放送児童合唱団)

後半では♪砂山、♪Brick Block、その後、赤塚不二夫氏が大好きだったというチャップリンの映画から、♪Eternally、♪Titinaが演奏されます。


Charlie Chaplin - Eternally (From ''Limelight'') (1952)


Charlie Chaplin - Titina (Modern Times,1936)

そして、最後の曲はやはり♪Boleroです。山下氏のボレロの演奏を最初に聞いたとき、その想像力溢れる斬新な解釈に衝撃を受けたことを覚えています。


山下洋輔氏母校でボレロ

 

今回のコンサートでは、童謡が比較的多く取り上げられてきましたが、いずれ童謡のアルバムを出す予定があるのだそうです。ジャズミュージシャンたちは多様なジャンルの楽曲を取り上げてスタンダードにしてきたわけですが、日本の童謡の中にも、ジャズ・スタンダードとして定着する可能性がある曲もあるような気がします。

 

これまで山下氏の生演奏は何度かで聴いたことがありましたが、今回改めてその演奏の素晴らしさを実感しました。山下氏といえば、どちらかといえば、フリージャズ的な印象が強烈ですが、演奏の繊細さに改めて気づきました。これだけの豪胆さと繊細さを併せ持つピアニストは、山下氏以外には見当たりません。

 

正に日本のトップピアニストとしての風格が漂う、大満足のコンサートでした。

 

レイモンド・チャンドラー「高い窓」

 

高い窓 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

高い窓 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

 村上春樹訳を読みました。

チャンドラーらしいハードボイルドさを持ち合わせた作品です。

 

探偵マーロウに、裕福な未亡人のミセス・マードックからの依頼が舞い込む。ミセス・マードックの息子レスリーの嫁リンダが失踪し、しかもミセス・マードック保有する貴重なコインのブラッシャー・ダブルーンがなくなっていた。

マーロウが、リンダがかつてナイトクラブで働いていたときの友人の女のもとを訪れる。彼女はナイトクラブのオーナーと結婚していたが、ヴァニアーという愛人がいた。

その後、2つの殺人事件が起こる。マーロウに接触してきた私立探偵と、ブラッシャー・ダブルーンの売買を持ちかけられたコイン商が殺害されたのだ。いずれの現場にもマーロウは居合わせてしまう。さらに、ヴァニアーも殺害される。

ブラッシャー・ダブルーンを盗んだのは、ヴァニアーと組んだ依頼人の息子レスリーだった。ヴァニアーが2人を殺害した後、ヴァニアーはレスリーに殺されたのだった。しかも、ヴァニアーは、依頼人の秘書の女マールの弱みを握っており、ミセス・マードックから長年にわたり金をせしめていた。

マーロウは、マールに深い同情を寄せる。。。

 

 

ラストでは依頼人の秘書のマールが急に話の中心に躍り出てくるところにやや違和感を感じます。この点も含め、物語全体にわたり、展開のスムーズさに欠けている感があることは正直否めません。村上春樹氏が解説の中で、

「自然なドライブ感が不足している」

と評しているのもうなづけます。

 

他方で、村上春樹氏も

「脇役の人物描写は相変わらず本当にうまい」

と述べているように、この物語に登場する脇役は魅力的です。

 

思うに、チャンドラーの小説は、物語全体の構成や細部のロジックではなく、物語全体に漂う雰囲気なのではないかと思います。そういう意味では、本作品もチャンドラーらしさが十分に堪能できる作品となっているのではないかと思います。

「チャイナ・ゲイト」★★★★☆

インドシナ戦争を舞台にした1957年公開の映画です。長らく日本では公開されてこなかった作品のようですが、とても素晴らしい作品です。

時は1954年。場所はインドシナ。フランスはモスクワから調達される武器を遮断するため、外国人傭兵部隊を組織して、弾薬が保管されている“チャイナ・ゲイト”を爆破するミッションを与える。

このミッションには、白人とアジア系のハーフであるリア(アンジー・ディキンソン)が参加する。彼女には幼い息子がいたが、その息子の父であるブロック(ジーン・バリー)もこのミッションに参加することに。ブロックとリアはかつて結婚していたのだが、生れた息子がアジア系の外見だったことにショックを受けたブロックは、妻と息子を捨ててしまったのだ。

リアは密輸を通じて顔が広く、チャイナ・ゲイトへの案内役として最適だったが、ミッションに参加する代わりに、息子をアメリカに避難させることを条件とした。

こうして、ブロックとリアはジャングルを潜り抜けて、チャイナ・ゲイトを目指す。

チャイナ・ゲイトを仕切る司令官は、実はリアにかつて求婚していた男だった。リアは息子を連れてこの地に来るようにしきりに誘われるが、ミッションを淡々と進める。

しかし、弾薬庫に導線を引いていざ点火しようとしたとき、司令官はリアの陰謀に気付き、導線は切断されてしまう。リアはミッションを成功させるため、わが命を顧みず、自ら弾薬に点火し、命を落とす。

残された息子は、無事アメリカに送られることなる。。。

 

この作品の背景には、人種差別に対する問題意識が色濃く存在します。ブロックは外見がアジア系だというだけで、自分と血のつながった息子と妻をあっさり捨ててしまうわけです。

ちなみに、このミッションに参加した1人の黒人を演じているのが、なんとあのナット・キング・コールです。ナット・キング・コールは、当初、映画製作費に比べて多額の報酬を提示したようですが、監督の人種差別反対の姿勢に関心を持ち、最低限の報酬での出演に同意したとのこと。

作品中、ナット・キング・コール自らタイトル曲を歌うシーンが、初めの方と終わりの方に2か所あります。低音で厳かに歌うナット・キング・コールの声が素晴らしく、しびれます。


CHINA GATE NAT KING COLE

 

この作品の魅力は、何といってもリアの女としての強さでしょう。夫に捨てられて、女手一つで息子を育て、息子をアメリカにやるためだけを目指して、危険なミッションに参加します。ミッションの途中で、元夫のブロックから、再び一緒になりたいと言われて感激するものの、結局はミッションを成功させるために自らの命をなげうつ姿は、息子を思う女の力強さがよく表現されており、思わず胸が締め付けられます。

 

監督のサミュエル・フラーの作品が日本で公開されたのはごく最近のようですので、おそらく日本ではこの監督自体、一般にはあまり知られていないと思われます。しかし、この作品を見るに、なぜもっと早く日本で見られなかったのか、不思議でなりません。

 

この監督の他の作品もぜひ見てみたいと思います。

「フォー・ルームス」★★★★

 

タランティーノ監督はじめ4人の監督による4つの作品から成る作品です。

ベル・ボーイのテッド(ティム・ロス)が、様々な部屋に呼びつけられて、奇妙な体験をする。

「お客様は魔女」では、怪しげな女性たちが続々と集結し、魔女をよみがえらせる儀式をしている話。しかし、一人の女性が、儀式に欠かせない精子を持ってこられなかったため、急きょテッドが呼ばれた。。。

 

「間違えられた男」は、氷を届けに部屋に行ったテッドが、夫婦のいざこざに巻き込まれる話。テッドは、夫から間男と間違えられ、銃を突きつけられる。

 

「かわいい無法者」は、2人の子供を置いて両親がデートに出かけてしまう話。テッドはその子供たちのケアを依頼されるが、頻繁に連絡が来ることにいらついている。ところが、その部屋のベッドの下からは、殺害された娼婦の遺体が見つかる。部屋が混乱している最中に両親が戻ってくる。。。

 

「ハリウッドからきた男」は、ペントハウスでハリウッドの関係者が宿泊しているところにテッドが呼ばれる話。テッドは指の切断をかけた賭けに巻き込まれる。。。

 

 

脈絡のないストーリーが、薄っすらと同じコンセプトでくるまれていて、いずれの作品も破天荒で荒唐無稽でありながら、魅力的なストーリーとなっています。

あまり意味を追求して見てしまうと、支離滅裂なのですが、それぞれの監督のセンスに着目してみると、大変楽しめるように思います。

個人的にはツボにはまりました。

太宰治「晩年」

 

晩年 (新潮文庫)

晩年 (新潮文庫)

 

 太宰治が27歳の時にまとめた短編集です。

久々に純日本文学を手にしてみました。

「葉」は、断片的な描写が断続的に連なった作品。切り取られた場面が走馬灯のように流れていきます。

「思い出」は、少年時代の歪んだ感情を率直に描いた自画像的な作品。女中への淡い恋心が率直に描かれています。『人間失格』に通ずるモチーフです。

「魚服記」は、貧しい炭焼きを父に持つ娘スワの話。スワは父親の代わりに滝を見に来る客相手に店番をしていたが、鮒に変身して滝壺に吸い込まれていく。。。

「列車」は、同郷の友人を追って上京してきた女が故郷に追い返され、その列車を見送るという話。主人公は善意で見送りに行ったのだが、気まずい時間を過ごす。。。

 「地球図」は、日本に潜入したキリシタンが獄死した話。イタリアのキリシタンであるシロオテを新井白石が尋問するシーンが印象的な作品です。

「猿ヶ島」は、猿同士が会話している話。主人公の猿は、自分達が人間達を見世物として見ていたが、やがて自分達の方が見世物であることに気付き、動物園を抜け出す。。。

 「雀こ」は、津軽弁を用いた詩。

道化の華」は、心中を図って一人生き延びてしまった青年が療養している話。療養所には友人や親族が集まっているが、相手が亡くなったことによる悲壮感は感じられない。所々で著者の太宰の意識が入り込んで、この作品について批評しているところが斬新な作品です。

「猿面冠者」は、 小説家の苦悩を客観的視点から描いた作品。その作家に、ある女性から葉書が届き、彼は書きかけの原稿の題名を「猿面冠者」とした。。。

「逆光」は、4編から成る短編。25歳を超えただけの青年がもはや晩年の境地に至っている「蝶蝶」、試験の答案に問題と無関係な記述を書き散らかして早々に試験会場を後にする「盗賊」、カフェで学生と百姓が喧嘩する「決闘」、村にやって来た見世物のくろんぼの女の話である「くろんぼ」。「蝶蝶」の中の次の一節が印象的です。

老人の永い生涯に於いて、嘘でなかったのは、生れたことと、死んだことと、二つであった。

 「彼は昔の彼ならず」は、大家の青年と借主の交友の話。その借主は一向に家賃を払わず、いずれ小説を書くと言ってぐうたらな生活をしていたが、大家の青年は彼を憎めず、“He is not what he was.”というかつて教科書で見つけたフレーズを思い返しつつ、むしろ彼の将来の出世を期待すらしてしまう。。

 「ロマネスク」は、太郎、喧嘩次郎兵衛、三郎の3人についての3編から成る。最後3人は居酒屋で遭遇する。。。

 「玩具」は、幼い頃の記憶の断片をつなぎ合わせた短編。

 「隠火」は、4篇の短編から成る。中でも印象的な「尼」は、男の家に尼がやって来て、如来が現れるという話。

 そして最後の「めくら草子」は、隣のマツ子との会話を中心にした、やや混乱した話し手の独白。

 

 

なぜ20代の青年が晩年という短編集をまとめなければならなかったのか。解説を書かれている奥野健男氏は、太宰治は自殺を前提にして、遺書のつもりで小説を書きはじめたのだ。

と述べています。

それだけ太宰は壮絶な思いでこの短編集をまとめたということが窺えます。

 全体を通して見ると、この短編集が、後年の『人間失格』に通じていることは、はっきりと感じ取れます。

新たな文体を模索する葛藤と、自らの偽善を省みる心情とが、とにかく錯綜した短編集で、読後感は決してスッキリしたものではありませんが、太宰の計り知れない才能を感じさせる作品集でした。

「潮風のいたずら」★★★★

 

潮風のいたずら [DVD]

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 ゲイリー・マーシャル監督の1988年の作品です。『プリティ・ウーマン』の監督だけあって、ベタの恋愛コメディですが、ラストシーンは楽しめます。

 

富豪の女ジョアナは、クルーザーを保有し、スタッフをこき使いながらわがままな暮らしをしていた。

そこに、大工のディーンがクローゼットの修理で呼ばれた。ディーンが作った靴箱は、ジョアナが求める材質でなかったため、ジョアンは代金の支払いを拒み、ディーンはジョアナを恨んでいた。

そんなある日、ジョアナは真夜中に甲板に出たところ、海に転落してしまう。運良く別の船に助けられたものの、ジョアナは記憶喪失に。ジョアナの夫は妻を見放し、クルーザーで放蕩生活を送る。

 

そんなジョアナをテレビで見たディーンは、未払い代金の貸しを取り戻すため、自らジョアンの夫だと名乗り出て、貧しい家に連れて行き、4人の子供達の世話や家事をやらせる。そんな生活に慣れないジョアナは戸惑いながら生活するも、やがてそんな生活に幸せを感じるようになる。

 

やがてジョアンの夫がジョアンを迎えにやって来る。ジョアンはそこで初めて記憶を取り戻し、元のセレブな生活へ戻っていく。

しかし、ジョアンは、ディーンたちとの幸せな生活が忘れられない。ディーンやその子供たちも、ジョアンに戻ってきてほしいと願い、船に乗ってジョアンの乗るクルーザーへと向かう。

ディーンとジョアンは共に海に飛び込み、海上で熱い抱擁を交わした。。。

 

 

ラストのシーンで二人がまさか海に飛び込むとは、意外な展開です。このラストのシーンがなければ、この映画に対する評価はだいぶ違っていたと思います。

このラストシーンには伏線があって、ディーンがジョアンに、似たような伝説を話す場面があります。それは二人とも死んでしまう悲しい話なのですが、それがラストシーンでは、ハッピーエンドになっています。

こんあ大袈裟なエンディングは、今ではなかなか受け入れられにくいと思いますが、当時のバブリーな雰囲気を象徴しているような気がします。